東京五輪・パラリンピックの期間中、東京湾での実施が予定されていたホテルシップについて、誘致を進めた4自治体の計画が頓挫していたことがわかった。宿泊施設不足を補うと期待されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で大会が延期になり、船会社が撤退したことなどが理由という

旅行大手JTBは2018年6月、横浜港・山下ふ頭での実施を発表した。大型客船「サン・プリンセス」(全長約260メートル、客室1011室)をチャーターし、観戦チケット付きプランを発売。港を管理する横浜市も、船周辺の警備費用などを20年度当初予算案に計上していた。

 ところが、20年3月に東京大会の延期が決定し、昨夏のホテルシップは中止に。横浜市とJTBは21年夏も実施しないことを決め、その後、船会社がサン・プリンセスの売却を発表した。

 JTB広報室は「ホテルシップ事業は、東京五輪のレガシー(遺産)になると考えていただけに中止は残念」とコメントした。

 東京都も東京国際クルーズターミナル(江東区)でホテルシップを計画していたが、大会延期決定直後、船会社側から事業のキャンセルを通知されたという。

 都港湾局の担当者は「コロナ禍で外国クルーズ船の受け入れが難しい状況が続いている。事業者の再募集はしておらず、現時点で21年夏の実施予定はない」と話す。

 一方、川崎市は19年3月、香港の船会社と川崎港での実施について覚書を締結。しかし、港から市街地への宿泊客の輸送方法や、船内で発生する汚水の処理などを巡って関係者間の合意が得られなかった。新たな事業者も見つからず、断念した。

 千葉県木更津市は木更津港での実施を目指していた。係留中の船内で火災が発生した場合に備え、消火活動への協力を地元の海運会社から取り付けるなど準備を進めていたが、事業者の選定には至らなかった。

 延期前の東京大会は国内外から約1000万人が集まると想定されていた。ホテルシップは、一時的な宿泊者増への対応に適しているとされ、政府も法的ルールを整備し、事業者などに活用を促していた。国土交通省は「今後開かれる各地の大規模イベントでも活用が期待されている」とする。

 ◆ホテルシップ=宿泊設備やレストラン、プールなどを備えたクルーズ船を港に停泊させ、宿の代わりに活用する。近年の五輪・パラリンピックでは、10年バンクーバー大会で延べ19万人が宿泊したほか、12年ロンドン、14年ソチ、16年リオデジャネイロの各大会でも実施された。
https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2020/20210421-OYT1T50151/