現代ビジネス4/29 渡辺陽一郎
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82603

前向き駐車のほうが難しい場合も
日本では、一般的に車庫入れをする時は、後退して駐車スペースに収める。いわゆる「バック駐車」だ。一方、海外、特に米国では「前向き駐車」が基本だ。なぜこのような違いがあるのか。

答えはシンプルで、日本の駐車場は全般的に面積が限られ、通路よりも幅の狭い駐車枠に入れる必要があるからだ。そのために通路の部分で鋭角的に車両の向きを変える(転回させる)ため、後退しながら車庫入れを行う方がスムーズになる。

試しに自車が入りたい駐車枠の左右が埋まっている状態で、駐車スペースに前進しながら進入しようとすれば、運転が難しくなる。後退しながら駐車スペースに収めるよりも、面倒な切り返しを強いられる。後退しながら駐車スペースに入れば、出る時には前進だから後の操作がラクになるメリットもあるが、それ以上に前進では駐車枠に入りにくい。

この理屈は、フォークリフトを思い浮べると分かりやすい。フォークリフトは進行方向に対して前輪を駆動して、操舵は後輪が行う。つまり一般のクルマに当てはめると、常に後退している状態だ。

従ってフォークリフトは、前進の状態で鋭角的に曲がることが可能になる。後輪操舵の背景には、前輪に大きな荷重が加わる事情もあるが、車両の向きを鋭角的に変えられるメリットは大きい。

その代わりフォークリフトでは、ステアリングホイールを急に回すと、進行方向が鋭角的に変わるから慣性の影響で横転しやすい。クルマが後退する時も同様だ。

後退中に速度を高めるのは、それ自体が危険な運転だが、高速で後退中にステアリング操作まで行うと、ボディの傾き方が拡大して挙動は一層不安定になる。後退時には少しのステアリング操作で車両の向きが鋭く変わるからだ。

ボディサイズが拡大すると…
以上のようにクルマの後退(フォークリフトの前進)では、安定性が悪化する代わりに、車両の向きが鋭角的に変わって車庫入れをしやすい。

縦列駐車も同様だ。後退しながら鋭角に車両の向きを変えると、空間の広い車道側(一般的には右側)にボディの前側が張り出し、後方は歩道側へ切れ込む。後退しながら車庫入れや縦列駐車を行う時に大切なクルマの機能は、小回り性能と後方視界だ。

まず小回り性能には、ボディサイズとホイールベース(前輪と後輪の間隔)が影響を与える。軽自動車はボディが小さく、ホイールベースも、軽自動車で最長のN-BOX(N-WGNやN-ONEを含む)が2520mmに収まる。

そのためにN-BOXでは、最小回転半径も4.5〜4.7mと小さい。ハスラーも4.6mだから小回りが利く。アルトの最小回転半径は4.2mだ。

一方、ボディが拡大すると小回りの利きも悪化する。それでも後輪駆動車は、ボディサイズの割には小回り性能が良い。例えばLサイズセダンのクラウンは、全長が4910mm、ホイールベースも2920mmと長いが、最小回転半径は5.3mに収まる。

前輪駆動車は逆に小回りの利きが悪い。アコードは全長が4900mm、ホイールベースは2830mmだからクラウンに比べて短いが、最小回転半径は5.7mに達する。レクサスESの上級グレードは5.9mだ。

今は前輪駆動車が圧倒的に多く、後輪駆動車は比較的ボディの大きなセダンやクーペになるが、街中では意外に運転しやすい。後輪駆動は運転感覚が自然なことからプレミアムセダンに多く採用され、メルセデスベンツEクラスも、全長は5m近いが最小回転半径は5.3mで外観から想像されるよりも扱いやすい。

縦列駐車や車庫入れでは、後方視界も大切だ。ボディの向きを鋭角的に変えるため、後退しながら狭い駐車スペースに収めるには、後方が良く見えなければならない。ボディの四隅の位置が分かりやすいことも不可欠だ。

N-BOXが売れている理由
軽自動車は日本の道路条件や駐車事情を考えて開発されるから、ボディが小さいだけでなく、ボディスタイルも縦列駐車や車庫入れがしやすくなっている。具体的には各車種ともサイドウインドーの下端が低めだから、側方と後方が見やすく、外観が水平基調の車種が多いから、ボディの四隅も分かりやすい。

海外向けに開発されたSUV、セダン、クーペには、ボディが大柄な3ナンバー車で、しかも側方や後方視界の悪い車種が多い。軽自動車に比べるとサイドウインドーの下端が高めで、しかも後ろに向けて持ち上げるから(ウェッジシェイプなどと呼ぶ)、後方を振り返っても後ろ側がほとんど見えない。この悪い視界を補うため、カーナビのモニター画面に、後方やボディ周囲のカメラ映像を表示できる車種が増えた。
(長文のため以下リンク先で)