人間の出生を否定する「反出生主義」という考え方が、注目を集めている。この数年、国内でも関連書籍の発表が続き、雑誌で特集が組まれるようになった。全ての人間は生まれるべきではない――。その言葉が人々の共感を呼ぶ背後にあるものとは。反出生主義をいち早く国内に紹介した早稲田大学の森岡正博教授(現代哲学)に聞いた。

―反出生主義とはどのようなものですか。

 「人間はこの世に生まれないほうが良い」という出生を否定する思想自体ははるか昔、古代ギリシャ、古代インドの時代から2千年にわたって脈々と続いてきた。それを建物の1階部分として、20世紀になってから「全ての人間は子どもを生まないほうが良い」という反生殖主義の要素が上に加わった。幾つかの類型はあるが、現在の反出生主義はこの2階建ての構造になっていると考えると分かりやすい。

――「2階」部分が付け加わった理由は。

 避妊の方法が具体化したのが大きい。それまでただ禁欲するしかなかったのが、20世紀になると避妊具が普及し、子どもを生まないということを考えやすくなった。

 宗教の権威が弱まってきたこともある。子どもは「天から授かる」のであり神の世界によるものであったのが、近代化、脱宗教化が進んだことで、生むか否かは親たちが決めるものと考える人々が増えた。

 1970年前後に、地球環境問題という意識が出てきたことも追い風になった。環境破壊の深刻さを目の当たりにし、「人間は地球のがん細胞であり、滅びるべきだ」との考え方が説得力を持つようになったと言える。

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