ネットのSNSなどで、数年前から「ウイグル話法」という言葉を、しばしば見かけるようになりました。

 話法と言っても、特に立派な構造があるわけではなく、何かの意見を表明した人間にいきなり絡んで「ではウイグルはどうなんだ」
「何々を批判するなら、なぜ中国がウイグルでしていることを批判しないのだ」と言いがかりをつける、嫌がらせに近い行為です。

(中略)
 しかし、なぜか日本人の一部には、他人を黙らせる目的で、ウイグル問題について語っているわけでもない相手に対して、いきなり「ウイグル問題」を持ち出す人がいます。
その多くは、自分の正体を隠した匿名覆面の人ですが、中には実名でこれを行う人もおり、驚くべきことに現職の国会議員にも、この「話法」の使い手が存在しています。

川淵三郎氏の擁護で唐突に「ウイグル」に言及した音喜多議員

 2021年2月11日、日本維新の会に所属する音喜多駿参議院議員は、次のような内容をツイッターに投稿しました。
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「早速、左派の方々を中心に、過去の発言を掘り起こして川淵氏の会長就任に反対するハッシュタグ祭りが始まっている…。
大事なのは現在と未来だし、人権を強調されるのであれば、ウイグル等でジェノサイドを現在進行系【ママ】
で行う中国・北京の冬季五輪開催に何か言うことはないのかとさすがに申し上げたい」
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 この投稿がなされたのは、森喜朗氏が女性蔑視発言により東京五輪組織委会長を辞任し、後継者として川淵三郎氏の名が取り沙汰されていた頃でした。
(中略)
 こうした背景を踏まえて、音喜多議員のツイートを見れば、彼が唐突に「ウイグル」に言及しているのは、単なる論点逸らしでしかないことがわかります。
川淵氏が東京五輪組織委会長に相応しいか否かという問題に、ウイグル問題は全く関係ないからです。

この音喜多議員のように、「人権問題をどうこう言う者がウイグルの人権問題に言及しないのはダブルスタンダード(二重基準)だ」という、
一見もっともらしい言葉で他人を威圧する「ウイグル話法」の使い手は、ネット上に散見されますが、実際には単純な詭弁でしかありません。

(中略)
 そもそも、ある人がウイグル問題に言及しないことは、ウイグルで中国政府が行っている非人道的行為をその人が是認していることを意味しません。
「ウイグル話法」の使い手は、標的とする人間がそれを是認しているかのように勝手に話を歪めて威圧しますが、
日本国内の身近で起きている人権侵害を批判する際に、いちいち無関係な外国(ウイグル)の話を持ち出す方がおかしいと、冷静に考えれば誰でも気づくはずです。

論の構造面から読み解くと、「ウイグル話法」は「ホワットアバウティズム(Whataboutism)」と呼ばれる詭弁術の変形であると言えます。

 「ホワットアバウティズム」は、何かを問題として論じている相手を、一見類似性があるように見える別の問題を引き合いに出して
「では何々はどうなのだ(What about ?)」と威圧し、混乱させ、相手の話の腰を折って黙らせようとする詭弁術です。

(中略)
 「ウイグル話法」もこれと同じで、その目的は、話の腰を折って相手を黙らせることにあります。この種の詭弁術を、私は「黙らせ恫喝」と呼んでいますが、
建設的な話をするのが目的ではないので、威圧に惑わされて口を閉じる必要はまったくありません。

(中略)
「ウイグル話法」はほとんどの場合、話者が「左派・左翼」と見なした相手を標的にする場合にのみ使用されます。
「右派」の話者がウイグルと無関係な話をしている時に「ではウイグルはどうなのだ」と威圧する話法を使う人を見たことがありません。

 また、中国の支配下にある香港警察が、香港の市民を無慈悲に弾圧する光景を見て、
香港警察を批判する日本人に対して「ではウイグルはどうなんだ」と威圧する話者も見当たりません。

(中略)
 もし誰かから「ウイグル話法」で絡まれたら、毅然とした態度で「今はウイグルの話をしていません」と切り返すことをお勧めします。
この詭弁は、話の腰を折って相手を黙らせることが目的だと理解し、過剰に恐れたり怯んだりしないようにしましょう。

https://wezz-y.com/archives/90170