高齢者への新型コロナワクチン接種が始まり、予約が殺到して電話がつながらないなど、各地で混乱が続く。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学経済学部の野田俊也助教授は、さまざまな希望を持つ人やサービスを組み合わせ、限られた資源を効率的に振り分ける「マッチング理論」を使えば、この問題を解決できるという。どういうことか。

殺到」を誘導するつくり
 ――マッチング理論とワクチンの予約がどう結びつくのでしょう。

 「私の専門は経済学の『マーケットデザイン』という分野ですが、どういう制度を設計すると人間がどのように行動し、どのような結果につながるのかを研究しています。その一つがマッチング理論で、2012年にノーベル経済学賞を受賞した考え方です。ワクチン予約は、接種希望者がたくさんいて、どの会場で、何日のどの時間帯に接種を受けるかを決めないといけない。端的に言って、マッチングの問題です」

 ――今の混乱ぶりを、マッチングの専門家としてどう見ますか。

 「今起きている混乱の大部分は、予約システムの制度設計に欠陥があるからだと思います。容量を超えて電話が殺到したり、長蛇の列ができたりするのは、こうした殺到を誘導するようなつくりになっているからです」

 ――どういうことでしょう。

 「まず第一に、ウェブ予約の方が人手は省けるのに、処理能力が遅いコールセンターに誘導するようなつくりになっていることです。もう一つは、『早い者勝ち』になっているので、なるべく早く予約した方が特だという気持ちを生みやすくしていることです。この二つの要因が複合することで、『すぐ電話して予約したい』というインセンティブ(動機付け)が働き、予約をさばく能力が低い電話システムに瞬間的に大量の予約申し込みが流れ込むような仕組みになっています」

――ただお年寄りは、ウェブ予約に慣れていません。

 「それはその通りだと思います。どうしてもウェブ予約ができない人はいるので、コールセンターを用意することは絶対に必要です。ただ現状でも、お年寄りたちは混乱の中、電話予約を取り付けるために多大な労力をかけています。その労力を、親戚や友人に頼んでウェブ予約してもらう方向に誘導すればいいのです」

 「もう一つは、おそらく引退世代で予定がつきやすい人が多いので、あらかじめ接種の日程を自治体が各個人に割り振っておくという方法もあります」

 ――この混乱ぶりは、昨春の「トイレットペーパー買い占め騒動」を思い起こさせます。
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