<新型コロナウイルスのワクチン接種の進捗が、国によって大きな「格差」が生まれている。
そのため、ワクチン接種のために国境を越える人々が増加している...... >

世界各地で新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されて、ほぼ半年。国によってその進捗具合には大きな差が生まれている。
ワクチン接種が遅れている国の人々の中には、ワクチンを求めて国境を越えるケースが出ている。

12月14日ワクチン接種を開始したアメリカでは、すでに47%近くが少なくとも一回はワクチン接種を受けており、
35%以上は必要回数の接種を終えている。だが、同じ12月14日にワクチン接種を開始した隣国のカナダでは、
一度目の接種を終えた国民の割合こそ41%を超えているが、必要回数の接種を終えたのはたった3.5%に過ぎない。

この状況に危機感を抱くカナダ人も多く、アメリカにワクチン接種に赴く例も出ている。
たとえば、CTV Newsは、出張で合衆国を訪れる機会を利用してワクチン接種を受けたカナダ人ビジネスマンのインタビューを報道した。

というのも、アメリカでは、居住者でなくてもワクチンを受けられる州が、テキサス、オハイオ、アリゾナ、
コロラド、アイオワ、ミネソタなど多数あるからだ(トラベル・デイリーメディア)。

同じ目的で中南米からアメリカを目指す人も増えている。現在、メキシコでは必要回数のワクチン接種を完了した人の割合は7.4%、
一度でも受けた人の割合が11.1%だし、ペルーではこれが2.2%と4.5%とさらに低い。

だが、アメリカでの接種を希望するのは、中南米の接種の進行が遅いことだけが理由ではない。
偽ワクチンが押収されたニュースや、必要な時に二度目の接種を受けられない例が相次ぎ、
自国のワクチンキャンペーンに不信感を募らせる人が増えたことも大きい。(ロイター通信, 5/12)

空の便もこの動きを反映している。アエロメヒコ航空によれば、メキシコと合衆国間の旅客数は3月から4月にかけて35%増加。
アメリカン航空も、ここ数か月におけるコロンビア、エクアドル、メキシコなどラテンアメリカ路線の乗客数が急速に伸びている。
こうした動きに観光業者も目をつけ、メキシコやアルゼンチンの旅行代理店は、ワクチン接種を含むアメリカ行きパッケージ旅行を扱い始めた(ロイター通信)。

ヨーロッパでも国によるワクチン接種のスピードの違いが見られる。イギリスでは18歳以上の68%が一回接種、35%が2度の接種を終えている。

いっぽう、ドイツでは、ワクチン接種の開始時期は同様に昨年12月にだったが、現在、一回接種が33%、接種完了者が9.6%となっている。
このため、ロシアでロシア製ワクチン「スプートニクV」の接種をするために、ロシアに向かう人々も現れている。

いっぽう、ルクセンブルクでは、必要回数のワクチン接種を完了した国民の割合は11パーセント強だ。
そこでルクセンブルクの旅行会社が、ワクチン接種ツアーを企画すると4月23日発表。

観光とファイザー社ワクチンの接種を組み合わせたこのツアーの行き先は同国から飛行機で2時間の距離だというが、今のところ未公表だ(Luxemburger Wort)。

現在、新型コロナウイルスの変異株が猛威を奮っているインドでは、ワクチン接種が始まって4か月が経つが、フル接種を終えた割合は2.8%、
一度目のワクチンを終えた割合も10%にしか満たない。

それに対しドバイではすでに必要回数のワクチンを済ませた人の割合は40%近い。
ドバイは3月から居留ビザを持つ外国人にもワクチン接種枠を広げたため、ビザを持つインドの富裕層の中には、
チャーター便を飛ばしてドバイへ行き、ワクチンを接種する例が出ている(The Economic Times)。

もともと、アラブ首長国連邦にはインド人が多く居住しており、その人口の3分の1を占める。その大半はドバイ居住者だ。

ワクチン接種のために国境を越える人々の増加に伴い、外国人ツーリストへのワクチン接種提供を公言する国も増えた。
カリブ海のバルバドスやキューバ共和国、モーリシャス共和国や、インド洋のモルディブ共和国、セーシェル共和国などがそれで、
多くは、リモートワーカー誘致を狙った長期ビザを発給を開始した国と重なる。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96282.php