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国民の声よりも、自分たちの利権を優先か?(写真/共同通信社)

コロナ対策費で恩恵受ける専門家たち 五輪に「NO」と言えない状況に
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 五輪開催に突き進む日本政府。菅義偉首相には、後戻りできない政治的事情もある。背後で「何が何でも開催しろ」と睨みを利かす安倍晋三・前首相の存在があるからだ。安倍氏は昨年、五輪の1年延期を決めた張本人だ。

【写真8枚】赤い帽子を被りマリオ姿の安倍晋三氏、手には赤い球。他、森喜朗氏、橋本聖子なども

「当時は森喜朗先生も感染収束にかかる時間を考えて2年延期に傾いていたが、総理として開会式に臨みたい安倍さんが自分の任期中に開催できるように1年で押し切った」(自民党ベテラン議員)

 結果的に安倍氏は退陣したが、自分のレガシーを優先した私利私欲の判断が今回の事態を招いたことは間違いない。

「五輪中止となれば菅首相が政治生命を絶たれるだけでなく、安倍さんも運命共同体だ」(同前)

 その安倍氏は菅首相が衆参トリプル選挙で全敗すると、「当然、菅首相が続投すべき」と擁護した。菅氏に9月まで総理を続けて五輪を開催してもらわなければ自分が窮地に陥るからだ。一方で、求心力が下がった菅首相は、安倍氏の顔色をうかがわなければ政権を維持できない。

 政府による感染対策費の大盤振る舞いも、五輪中止論の“口封じ”につながっている。

 感染拡大以来、医師会の幹部や在野の感染症専門家からは「五輪中止」の声が強まっている。ここで政府に感染対策をアドバイスする立場の新型コロナウイルス感染症対策分科会や厚労省のアドバイザリーボードの専門家たちが、「五輪開催は無理だ」とはっきり勧告すれば、政府は方針転換を迫られるはずだ。

 しかし、厚労省医官出身の尾身茂・分科会座長は、「議論すべき」というだけで、他のメンバーも政府に遠慮して「中止」を突きつけようとはしない。この政府の感染症専門家集団の中心が、PCR検査や変異株検査などを取り仕切る国立感染症研究所(感染研)だ。

 分科会会長代理で厚労省アドバイザリーボードの座長を兼務する脇田隆字氏は感染研の所長。ボードメンバーはその脇田氏をトップに感染研感染症疫学センター長の鈴木基氏、感染研OBで内閣官房参与の岡部信彦氏(川崎市健康安全研究所長)などが顔を揃えて感染対策に大きな影響力を持つ。

 この感染研、コロナで予算が急増している。年度から定員が2倍(716人)になり、予算も前年度比41億円増の106億円へと増えた。

 研究者個人への科研費(科学研究費助成)も増えた。

 たとえば、厚労省の「新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業」の助成金は、コロナ前の2019年度は総額3億4320万円に過ぎなかったが、2020年度はコロナ対策補正予算などで40億5341万円へと10倍超に増やされ、内閣官房参与の岡部氏など研究者41人に助成された。そのうち感染研の現役研究者(15人)に9億円以上が配分されている。中には狂犬病やポリオの研究などコロナと関係がなさそうな研究への助成など、焼け太りが疑われるものもある。

 政府のコロナ対策費の大盤振る舞いの恩恵を受けているから、分科会や厚労省のアドバイザリーボードは、菅首相が強行する「五輪開催」にNOと言えないのだ。

※週刊ポスト2021年5月28日号