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家から漏れる音はご近所トラブルの種である。が、庭のカエルの鳴き声で裁判沙汰になったとは前代未聞。ことは東京都板橋区の住宅街で起きた。訴えた男性を仮に鈴木さん、訴えられた男性を佐藤さんとしよう。ともに一戸建てに住む60歳を超えた高齢者だ。

「昨年5月に佐藤さんが外出先から帰宅すると、隣家の鈴木さんが玄関先にいて、“カエルの声がうるさい”と怒鳴り始めたんですよ」

 とは佐藤さんの代理人弁護士。佐藤さん宅の庭には三角形の池があり、一辺が1メートル程度で深さ約40センチと小さいものだったが、どこからかカエルがやって来て、鳴いているのに気づいてはいた。しかし、特段うるさいとも思わなかった。

「抗議を受けて佐藤さんは、家人とともに声の主を捜し、体長2〜3センチのアマガエルを5匹捕獲、近くの公園に放しました。ただ、すばしっこいのを1〜2匹ほど捕獲できずにいたところ、7月にいきなり簡易裁判所に調停の申し立てを起こされたんです」(同)

 鈴木さんから示された調停案は“全カエルの駆除と池の埋め立て。埋め立て費用は一部負担しても構わない”というものだったが、

「そんな案は呑めません。まずカエルは益獣で駆除の対象ではないからです。鈴木さんは音に敏感な方だとは思われますが、環境省の『騒音』判断基準を見ても、そもそもカエルやセミの鳴き声は騒音測定の際に除外するものとなっている。まして6月下旬以降、カエルの鳴き声は止み、終わった話になっていました」(同)

 かくて調停は不成立となったが、8月に今度はカエルの駆除と損害賠償を求める裁判を起こされたのだ。原告となった鈴木さんの代理人弁護士は言う。

「鈴木さんは一昨年からカエルの鳴き声に悩まされ、昨年5月、原因が隣家の庭にあると気づいて駆除を申し入れたんです。これに応じてもらえず、調停も不調だったため提訴しました」

 鈴木さんは主張した。カエルは数秒から30秒ほど鳴く。長いと4分30秒も鳴き続ける。一個体が10分間隔で鳴くとしても、全体として音が途切れない状態だ。区から借りた機器で6月に音量を測定したら、東京都の環境基準を上回る66デシベルに達していた。これは受忍限度を超えている、と。

 鈴木さんの代理人いわく、

「先方は全部で6〜7匹と言いますが、66デシベルとなると100匹はいたんじゃないでしょうかね」

 この点、佐藤さん側は、

「1メートル程度の池に100匹もいるはずがありませんよ。それに66デシベルとは敷地境界付近の野外で測った数字だというじゃありませんか。本来は室内への透過音で議論するべきです。大体、66デシベル云々は訴状等に記載があるのみで、裁判には証拠としてのデータが提出されませんでした」

 東京地裁が先月23日に下した判決はこうだ。「カエルの鳴き声は、自然音の一つであり」「原告の受忍限度を超える騒音に当たるということはできない」。つまり原告の請求を棄却──。

 まぁ、そりゃそうだろう。鈴木さんの代理人に訊くと、

「先方はカエルに対する管理責任がない、つまりカエルの所有権がないことは認めていますから、今後、当方の全額負担による駆除を申し入れていく予定です」

 勝った佐藤さん側は、

「法律問題の範疇でない事柄で訴訟提起されたこと自体、問題だと考えます」

 初夏の風物詩であるカエルの鳴き声が騒音だなんて、本当にカエルが泣く。

「週刊新潮」2021年5月20日号 掲載
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/20244707/