EDUA 5/28
https://www.asahi.com/edua/article/14359437

――早稲田大学が卒業生調査をしていることを初めて知りました。大学総合研究センターのウェブサイトに調査結果を載せています。

大学総合研究センターは大学のIR(Institutional Research)がミッションの一つで、高等教育研究部門がこの調査を行いました。学内の教育の実情を知るために卒業生に聞いて、大学の教育改善に使うためで、対外的に発表するのが目的ではありません。

卒業生調査は、2014年にセンターができたときからの課題でした。調査の意義について学内の合意を得て、18年度に試行的調査を行った後、19年度に本格的に調査しました。

卒業して10年になる06年度入学者全員を対象に案内状を郵送し、ウェブで回答してもらいました。回答数は543人で、送付した1割にも満たないので、必ずしも全体の傾向を表しているとはいえません。

――年齢でいえば31〜33歳が大半です。卒業後10年の卒業生を対象にしたのは、なぜですか。

早稲田大学は07年から08年にかけて本格的な教育改革に着手しました。07年に第一文学部と第二文学部を文学部と文化構想学部に、理工学部を基幹理工、創造理工、先進理工の3学部に改組しました。調査した卒業生が学部2年の時です。08年には「Waseda Next 125」を発表し、創立150周年に向けた「Waseda Vision 150」につなげていきました。

大きな改革の前後の変化を見たかったのと、大学で学んだことが役立っているかを知るのに、卒業後10年くらいがいいと考えました。

――一般入試、指定校推薦、自己推薦・AO入試、附属・系属校からの推薦と、入学時の入試区分別に分けて分析していることに注目しました。

卒業生調査を行っている大学はかなりありますが、入試区分別の調査はあまりないと思います。調査の目的の一つは、学内の教育が卒業後も有効かどうかを分析することで、そのために高校までの学習プロセスをとらえることが必要です。選抜機能が高い一般入試(一般選抜)で入ったのか、指定校推薦(学校推薦型選抜)やAO入試(総合型選抜)のタイプか、附属・系属校かに分けて、大学教育を通じてどう変化したかを見ないと、ひとくくりでは分析できないと考えました。

――入試区分別に見ると、附属・系属校が専門科目や一般教育科目、研究活動などに熱心で、一般入試は他の入試区分に比べてポジティブな特徴はない、という結果になっています。

回答者を入試区分別に06年度入学者の実際の比率と比較すると、一般入試67%(実際は60%)、附属・系属校10%(同13%)で、一般入試が多くなっています。また附属・系属校の回答者は政治経済学部と理工学部が多く、これらを含めて結果は慎重に見ないといけないと思います。一般入試は数が多いので特徴が出にくい面があります。

大学で受講した科目は今も役に立っている

――一般入試組は難しい入試を突破し、一番勉強してきたはずなのに、大学に入ってから伸びない人がいるという指摘は、他の難関大学でも聞きます。

従来から一般入試は優れた学生がいる一方で、入学時に燃え尽きてしまって伸びしろがない、大学で何をしたいのかわからない学生が他の入試区分より目につくといわれてきました。母集団が大きいので、量的にそう見えてしまうのかもしれず、数字のトリックの要素があります。

一方、指定校推薦はまじめさ、忍耐力などの非認知能力が一般入試より高く、自己推薦・AO入試は高校卒業までの海外経験が他の入試区分より有意に高いなどの特徴があります。

いかに入試を多様化するか、それぞれの入試区分のバランスをどう見るかが大事です。学部教育で身についたものとして、専門科目、幅広い知識・教養、論理的思考能力、表現力・プレゼンテーション能力の四つを聞きましたが、入試区分による差はありません。どの入試区分でも、学部教育でこれらの能力を取得したという回答が多く、高い評価になっています。

――大学で受講した科目が現在の仕事にどの程度、役に立っているかを見ると、「かなり役立っている」「やや役立っている」の合計は、専門科目55%、一般教育科目51%、ゼミ51%となっています。自由コメント欄には、「今の仕事の基礎知識を得た」「ゼミでの調査やプレゼン経験、文書を書く力が役立っている」などと書かれています。

卒業後10年経っての役立ち度の数字ですから、半数以上の卒業生が「役立っている」と評価していることをうれしく感じます。10年経てば「不易と流行」の「流行」を扱う学問では陳腐化する部分がありますが、本質的なことを学んでいたと解釈しています。
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