「愛知100万人リコールの会」による署名集めは、選挙があり署名活動が一時中断を余儀なくされた愛知県岡崎市など5自治体を除き、2020年10月25日に締め切りを迎えた。
ちょうどその前後の時期に、佐賀市ではアルバイトによる署名の代筆作業が続けられていたとされる。

 同11月3日、名古屋市のホテルに集められた署名簿の中から、同一筆跡とみられる署名が大量に見つかる。
その後、リコール運動関係者の間では、署名が偽造されているのではないかとの疑念が広がっていった。

 会の事務局幹部だった元同県常滑市議(52)は署名偽造疑惑の発覚後、周囲に対し、事務局長の田中孝博容疑者(59)=地方自治法違反容疑で逮捕=の指示を受け、
自らも偽造に関与していたことを認め、こう漏らしていた。「田中さんからは『(リコールが)成立しなければただの紙切れ。選管は数えるだけで審査しない』と説得された」

 リコール運動で集められた署名は制度上、住民投票に必要な法定数に届かなければ、選挙管理委員会が自筆であるかどうかなどを審査する必要はない。
11月4日に県内の各選管に提出された署名はリコール成立に必要な法定数約86万6000筆に対し、約43万5000筆と半数にとどまった。
選管は調べることはないはず――。田中容疑者はそう見込んでいたとみられる。

◇有志「不正暴きたかった」

 署名提出から3日後、リコールの会会長の高須克弥氏は記者会見し、「活動は盛り上がっている。でも、体がもたない」と述べ、自らの体調不良を理由にリコール運動中止を宣言した。

 「このまま活動を終わらせたら、事務局に署名が返却され、不正の証拠が無くなってしまう」。
署名集めの中心的な役割を担った「請求代表者」の有志らは5自治体がまだ提出の締め切り前だったこともあり、署名活動の継続を決めた。
12月4日には県庁で記者会見を開き、事務局が署名偽造に関与している可能性を指摘した。

 その後も、請求代表者3人が県内の各選管を訪ね、提出された署名簿を閲覧。
一枚ずつ署名簿をめくり、同一筆跡とみられる署名が全署名の78・2%に上ると結論づけた。

「大量の偽造署名の中に、本物の署名を見つけると悔しくて涙が出た。何がなんでも不正を暴きたかった」。
不正の証拠を集め、選管や警察署に告発状を提出した。請求代表者らの声を受け、異例の調査に踏み切った県選管の担当者は
「有権者や請求代表者らの声がなければ、署名を調査することはなかったと思う」と振り返る。

(中略)
 田中容疑者は逮捕前、記者に電話口でいらだちをぶつけた。「だから! 法定数に達していないものが無効署名と判断されるなんて本来あり得ないんですよ。
選管が(本来するはずのない調査を)都合よくしちゃったわけだから」

 制度の死角を突き、田中容疑者らが偽造署名による水増しを行った疑いもあり、県警は全容解明に向け捜査を進めている。
見過ごされていた可能性もあった署名偽造は、署名集めに関わった当事者の強い思いによって暴かれた。

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