生後56日以下の子犬や子猫の販売を原則禁止する「8週齢規制」を定めた改正動物愛護法が6月1日に施行される。幼いほうが売れ行きやコスト面で優位である一方、早い段階で親元から離すと、餌を食べなかったり、ほえ癖やかみ癖がついたりするなどの問題行動も多くなるとされる。改正法は悪質業者排除が狙いで、ペットをめぐる環境の改善に期待がかかるが、関係者からはコスト増に加え、結果的に犬猫が行き場を失うことなどへの不安の声も上がっている。(本江希望)

「販売まで日にちが延びるほど飼育コストはかかるが、精神面などを考えると安心」。犬のブリーダーで、大阪府東大阪市でペットショップを経営する辻澤久美子さん(51)は、改正法にこう理解を示す。

改正法は動物の虐待事例が後を絶たない中、令和元年6月に成立。「8週齢規制」は、問題行動が出やすくなると飼い主の飼育放棄につながるとして加えられた。本則で生後8週に当たる56日を超えるまで販売を禁じたが、激変緩和措置として7週に当たる49日を超えれば販売が可能とする付則を設置。6月1日からはこの付則が廃止される。ほかにもマイクロチップ装着の義務化や、業者の飼育数制限、ケージの広さなど管理方法を具体的な数値で示した環境省令が6月以降、段階的に施行される。

動物の環境改善につながるとして期待されるが、業者にとってこうした規制は大きな負担となる。「基準に合ったケージの買い替えやマイクロチップの装着も進めているが、とてもお金がかかる一方、これに対する助成金もない」と辻澤さん。従業員1人当たりの飼育数制限の完全施行を3年後に控え、「従業員を増やす必要があり、そのためには販売価格を上げていくしかない」とも語る。

実効性を懸念する声もある。犬や猫の保護活動を行うNPO法人「みなしご救援隊犬猫譲渡センター」(広島市)の佐々木博文理事長(52)は、「法律があっても取り締まる機関が機能していなければ変わらない」と強調。体制強化を行わず、法規制だけしても悪質業者の排除は難しいと話す。

佐々木理事長によると、これまで、多頭飼育崩壊や違法ブリーダーなどの問題が発覚するたびに自治体に対応を求めてきたが、機能しないことが多かったという。動物問題の管轄は保健所などだが、「新型コロナウイルス禍で人員が足りない中、立ち入り調査などを行う余裕があるのか」と首をかしげた。また、飼育数制限は、悪質なブローカーが犬や猫を殺処分したり、多くの頭数を抱える保護団体の動物が行き場を失ったりするなど「動物愛護に反する事態につながりかねない」という。

飼育放棄や多頭飼育崩壊など飼い主側の問題も多い。「癒やしとしてペットを飼う人は増えているが、動物愛護法には、動物がその命を終えるまで適切に飼う『終生飼養』の義務が明示してある。飼い主として責任を持ち、真剣に命と向き合ってほしい」。佐々木理事長はこう訴えている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/6e10134bdf6d430730c13d910f5383c0713b286e