【台北=矢板明夫】台湾で新型コロナウイルスの感染が今月中旬から急拡大し、新規感染者300人の以上のペースが連日続いており、月末になっても収まる気配はない。最大野党、中国国民党は蔡英文政権の対応について「無能」「無策」などと痛烈に批判し、与野党の対立が一層鮮明となっている。一方、中国当局も自国製ワクチンの台湾への提供をちらつかせ、支持率が急落する蔡政権に揺さぶりをかけている。

厳しい水際対策で昨年一年間の感染者を1000人以下に抑えた台湾だが、5月15日以降の約2週間で確認された新規感染者は6000人を超えた。急速な感染拡大に市民の間で動揺が広がっている。病院に患者が大量に押し寄せ、病床と人手、ワクチンが不足し、医療現場は逼迫(ひっぱく)している。

こうした状況について、野党は「政府は一年以上も準備する時間があったのに、何もしてこなかった」と批判。国民党主席の江啓臣氏は自らのフェイスブックで「人災だ」「民進党の傲慢による殺人だ」などと書き込んだ。

国民党籍の自治体の首長たちは、蔡政権に対抗するために、さまざまな独自の「コロナ対策」をとり始めた。離島の金門県は23日、空港に検査ステーションを設置し、訪れる人に検査を実施すると一方的に発表した。中央当局のコロナ対策指揮本部は「勝手な動きは困る」と一時難色を示したが、結局、押し切られる形で追認した。また、中部の南投県は「県民を守るため」と称し県の予算で中国の薬品メーカーからワクチンを独自購入する動きを見せたが「ワクチン購入は中央の仕事」として認められなかった。台湾大手紙の政治担当記者は「来年の統一地方選挙を控え、野党の首長たちは自らの存在感をアピールするため必死になっている」と指摘する。

蔡英文総統の支持率は最近、急落した。民間シンクタンク「台湾民意基金会」が25日に公表した世論調査の結果では、蔡氏の支持率は45・7%となり、2期目がスタートした昨年5月以降で最低となった。

台湾の状況を受け中国当局は「自国製ワクチンを支援する」と何度も表明し、台湾への影響力拡大を狙っている。蔡政権は「安全上の懸念」などを理由に受け入れには慎重だが、国民党関係者は「命が危険にさらされているのに、待つ時間などない」と批判のトーンを強めている。

産経ニュース 矢板 明夫 2021/5/30 19:09
https://www.sankei.com/article/20210530-SIO2MG7H2ZPCJODRXRGPYJQDFQ/