デイリー新潮 2021年6月3日掲載
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/06030600/

文部科学省は4月、来春の新設を目指して許可申請が行われた大学の学部・学科を公表した。これに昨年10月までに申請された大学の新設を加え、旺文社教育情報センターが集計を行った結果、来年の大学入学定員は2975人増える可能性があるという。同社の公式サイトには、「2022年 新設予定の大学・学部・学科情報[認可申請状況]」が掲載されている。

日本では依然として少子高齢化が進行中だ。加えてコロナ禍も大きな影響を与えている。受験生の数は減ることはあっても、増えることはない。にもかかわらず、大学の定員を増やすというのだ。

もし文科省が2975人の定員増を許可すれば、日本の大学はますます“広き門”となってしまう。本当に“大学全入時代”がやって来た──こんな思いを抱く向きもあるだろう。

民主党政権だった2012年、当時は文科相だった田中眞紀子氏(77)は突然、3大学の新設について認可を行わないと発表して大騒動となった。最終的には撤回されたが、対象となったのは秋田公立美術大学、札幌保健医療大学、岡崎女子大学の3校だった。

田中氏は不認可の理由を「大学が多すぎて質が低下している」と説明した。当時は大論争となったが、今でも賛意を示す有権者は一定数存在するだろう。では、今回の申請を具体的に見てみる。まず大学の新設申請からご紹介しよう。全部で4校ある。

【統合】
◆大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学(大阪府)

【短大の廃校】
◆川崎市立看護短期大学を廃校とし、川崎市立看護大学(神奈川県)
◆大阪信愛女学院短期大学を廃校とし、大阪信愛学院大学(大阪府)

【新設】
◆令和健康科学大学(福岡県)

多い看護学部
この4大学だが、いずれも看護学部が設置予定という共通点がある。次にご紹介する学部の新設でも、その傾向は変わらない。

申請された6校8学部の内訳は、観光学部、児童教育学部、薬学部、看護学部、リハビリテーション学部、医療福祉学部、医療科学部が2つと、医療系学部が多数を占める。

兵庫医科大学(兵庫県)は廃校となる兵庫医療大学(同)の学部を吸収したことによる新設なので割愛させていただく。残る5大学の新設5学部は次の通りだ。

◆日本医療大学(北海道)医療福祉学部を新設
◆東海大学(神奈川県)児童教育学部を新設
◆金城学院(愛知県)看護学部を新設
◆國學院大学(神奈川県)観光学部を新設[文学部・日本文学科の定員減]
◆名古屋女子大学(愛知県)医療科学部を新設[文学部・児童教育学科、児童教育専攻、幼児保育学専攻の定員減]

増え続ける大学
文学部の定員を減らして医療系の学部を新設したり、文学部や家政学部がメインだった伝統的な女子大が看護学部を新設したりするなど、まさに高齢化社会を反映していると言えるだろう。

学科の新設と、専門職大学の新設は一度にご紹介する。「専門職大学」とは2017年の学校教育法改正で設けられたものだ。

これまでリハビリ、ファッション、動物看護などの専門職大学が認可されている。乱暴に言えば専門学校を大学にしたようなものだ。

◆日本医療大学(北海道)保健医療学部に臨床工学科を新設
◆新潟青陵大学(新潟県)福祉心理学部に子ども発達学科を新設[社会福祉学科の定員減]
◆宝塚医療大学(兵庫県)和歌山保健医療学部(和歌山県)に看護学科を新設
◆モビリティシステム専門職大学(山形県)
◆アール医療専門職大学(茨城県)

大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は「2000年に649校あった4年制大学は、21年に795校に増えました」と指摘する。

短大の減少
「背景にあるのは、短大の減少です。2000年に572校あった短大は、20年に323校となりました。大きく報道された例として、1997年度に募集を停止した学習院女子短期大学、2018年度に停止した立教女学院短期大学、19年度に停止した青山学院短期大学が挙げられます」

学習院、立教、青山の各短大は、もともとある4年制大学に“吸収”される形となったが、短大が4年制大学になったところも少なくない。

こうして90年代から始まった文系短大の減少が一段落し、今は看護系短大が4年制大学となるケースが増えている。その際、定員を増やした学校も多かった。在校生や受験生が増えると、大学経営の追い風になるのは当然だ。
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