新型コロナウイルス対策の「切り札」であるワクチン接種がようやく加速しそうな気配だ。
職場や大学などが会場となる職域接種も6月中に始まり、菅義偉首相が掲げた1日100万回接種も視野に入る。

緊急事態宣言とまん延防止等重点措置などによる感染抑止と合わせた「二正面作戦」を軌道に乗せ、
東京五輪・パラリンピック開催機運を高め、政権浮揚に結び付けられるか。岐路にある。 (久知邦)

官邸関係者の間では5月末を境に、「風向きが変わってきた」(首相周辺)とワクチン接種の進展に自信をにじませる発言が聞かれるようになった。

5月7日、首相が唐突に「1日100万回」を打ち出し、実現性に疑問符が付けられた時とは明らかに局面が変わった感がある。
当時、歯切れが悪かった政府高官は今、余裕をのぞかせる。「元々、達成できると思っていたんだ」

この間、首相は「ワクチンしか眼中にない」とやゆされるほど、その加速に尋常でない固執を見せ、二の矢、三の矢を放った。

(1)自衛隊を活用した大規模接種センターを東京都と大阪府に設置
(2)都道府県独自の大規模接種事業を政府が後押し
(3)「打ち手」として新たに歯科医師、救急救命士、臨床検査技師を認め接種に関する報酬も大幅に引き上げ−といった具合だ。その結果は−。

官邸ホームページによると、6月1日の接種回数は高齢者と医療従事者で計約52万7千回に。
実際の数字がシステムに反映されるまでの時間差を考慮すると、「既に1日60万回を超えている」(政府高官)とされ、
加えて季節性インフルエンザワクチン接種の柱になっている職域接種が動きだせば、1日100万回は優に届くとの見方が強まりつつある。

首相が明言した「7月中の高齢者ワクチン接種完了」も、現実味が出てきた。
総務省の5月調査で「間に合わない」と回答したのは全国251自治体あったが、6月2日に発表された最新調査では23自治体まで改善された。
九州7県では、全自治体が「達成見込み」と回答。官邸筋は「自治体は横並び意識が強い。競わせれば数字は改善するんだ」と話す。

米国、英国などはワクチン接種の前進が人々に勇気を与え、コロナ禍の沈鬱なムードから攻勢に転じる契機となった。
日本国内の現状を見ると、医療提供体制が危機にひんしている沖縄を除けば、緊急事態宣言が発出・延長されている東京、大阪、福岡をはじめ全国の新規感染者数は減少カーブを保つ。

もう一方の「作戦正面」であるワクチンが進めば、報道各社の世論調査が軒並み芳しくなく、30%台の数字も出ている内閣支持率を好転させられる、との期待が政権内に生じている。

とはいえ、感染力の強いコロナ変異株の脅威は何ら変わっておらず、五輪開催反対の世論も強固だ。
鍵を握るワクチン接種に関し、首相周辺は「ここからしっかり遂行できるかが大事だ」と気を引き締める。

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