AERA2021.6.3 11:00
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 令和になって、はや3年。すでに「平成レトロ」という言葉も使われ始めた。平成後期に青春時代を過ごした記者(28)にとってなじみ深いのが、「着うた」(ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標)だ。かつては絢香の「三日月」やYUIの「CHE.R.RY」など着うたのCMソングが盛んにオンエアされ、携帯から“うた”が鳴り響くことが当たり前だった。だが、今は着うたを耳にすることは、めっきりなくなった。携帯がスマホに移行してからというもの、若者ですらデフォルトの通知音やバイブ通知で済ませるようになっている。なぜ着うたのニーズはなくなったのか? 開発者などを取材した。

 2002年に登場した「着うた」は、ピークの09年には市場規模が1200億円を超え、モバイルコンテンツとして最も大きな市場を形成した(「平成24年 モバイルコンテンツの産業構造実態に関する調査結果」)。だが、11年から14年にかけて、年を追うごとに半減を繰り返し(「日本のレコード産業2020」)、16年に配信サービスが終了した。

 2011〜14年といえば、スマホやLINEの普及が進んだ時期であり、これと軌を一にして着うたは衰退していった。なぜ、スマホに着うたはなじまなかったのか。

「さとり世代」の名付け親で、若者文化に詳しいマーケティングアナリストの原田曜平氏は、自身が管轄する「若者研究所」でアルバイト勤務する10〜20代の若者たちから着うたに関する意見を聴取した結果から、次のように話す。

「ガラケー時代のSNSといえばミクシィぐらいで、やりとりでは通話やショートメールを多用していました。しかし、LINEが主な連絡手段になってからは、メールや電話の使用頻度が格段に減った。使わないなら着信音にこだわらなくていい、と気持ちの変化はあったはずです」

 とはいえ、LINEにも通知機能がある。たとえば「LINE MUSIC」を利用すれば、楽曲を着信音に設定することも可能だ。だが、通知音を「うた」にする人はあまり聞かない。原田氏はその要因をこう語る。

「今の若者に送られてくるLINE件数は、驚くほど多い。返すのに忙しくて電話しているどころではないですし、LINEが来るたびに着信メロディーを鳴らしていたらキリがない。情報の数量的にも、時代にそぐわなくなっているのだと思います」

 また、携帯への依存度も影響しているのではないかとみる。

「ガラケー時代は、まだ携帯以外に意識を向けていることも多く、『着信音を通して携帯の中へ』という切り替えが必要でした。でも今は常にスマホをいじっているので、曲まで鳴らす必要はなくなったのかもしれません」(同)

 若者の根本的な心理変化についても指摘する。原田氏によれば、リーゼントやワンレン・ボディコン、2000年代初頭のガングロブームのころまでは、若者は「自分の個性を主張したい」という意識が強い傾向にあったが、近年はそれが弱まっているという。ゆとり世代(27〜33歳)やZ世代(17〜26歳)では、若者のスタンダードな“自己主張”だった髪を染めるという行為も明らかに減ってきているという。着信音も「個性」を求める時代ではなくなった。

「特にZ世代は、悪目立ちを嫌がり、個性を主張してまで目立ちたいという願望は希薄です。LINEのアイコンにお気に入りの音楽をさりげなく付けることはありますが、周囲に音を出して、『俺はこの音楽が好きなんだ!』とまでは主張しない。着信の音楽で自分の個性を他人に知らしめるという若者像ではなくなった」(同)

 着うたに関わった“当事者”はどうみているのか。元「レーベルモバイル」(現・レコチョク)代表として着うた開発を主導した今野敏博氏も、アイフォンが“黒船”だったと振り返る。

 その上で今野氏は、日本の携帯電話事業をとりまく環境の激変について語った。

「ガラケーが主流だったころは、auなどの各キャリアが目玉として着うた関連のサービスを展開し、日本独自の文化として根付かせようとしました。しかし、日本はスマホ事業で後れを取り、コンテンツサービスはGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に支配された。GAFA以外のサービスで伸びているのは、音楽だとSpotifyぐらいです。その波にのまれ、日本独自のサービスだった着うたも衰退した」

かつて音楽を「買う」のはCDが主流だったが、着うたは「今すぐ聞きたい」というニーズに応えた点で画期的なサービスだった。
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