新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施されているアクリルパネルやビニールシートが飛沫感染の一因となるという“衝撃的な”研究結果を国立の電気通信大を中心とした研究チームが5月28日に発表した(https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2021/20210531_3411.html)。

 研究チームは、同大と産業医科大、宮城県結核予防会の研究者によるもので、実際にクラスターが発生した宮城県内の事務室を調査し、当時の換気状況を CO2 ガスにより測定し、さらに熱流体シミュレーションによってマイクロ飛沫の挙動を分析した。

 この研究結果は、情報をいち早く共有し広く意見を求めるため、医学分野のプレプリントサービス「medRxiv」に、速報原稿が投稿された。

 新型コロナの感染拡大を防止するために、人との「接触」と「飛沫」を避けることを目的に商店や飲食店など多くの業種で、会計カウンターや客席など様々な場所でアクリルパネルやビニールシートを利用している。

 研究チームは、宮城県内でマイクロ飛沫による空気感染が原因とみられるクラスターが発生した事務室で現地調査と分析を行った。この事務室では、飛沫感染対策の一環として、向かい合った机の列を隔てるように、床面からの高さ1.6メートルのビニールシートパーテーションが設置されていた。

 この遮蔽により空間が5つの区画に分断されており、実験により区画によっては換気回数が毎時0.1 回程度と非常に低くなっていたことがわかった。これらのうち2区画で小規模なクラスターが発生していたことから、パーテーションによって気流が遮られた結果として換気能力が低下し、区画内でマイクロ飛沫による空気感染が発生した可能性が示唆された。

 また、熱流体シミュレーションによる解析結果からも、区画間の空気の流れがビニールシートによって阻害されていたことがわかった。そして、改善策として区画毎に窓開けを行い、さらに入口扉と廊下の先にある窓を開放することで、まんべんなく空気の流れ道を作り出す事ができ、換気回数を毎時10〜28 回まで向上できることも判明した。

 今回の研究の結果、飛沫感染対策のパーテーションの設置の際には、「換気の悪い密閉空間」を避けることが重要で、同時に区画毎に換気を確保することが重要だということが明らかになった。

 同大では、これまでに東京都調布市の調布駅前商店街と、飲食店・学習塾・スポーツジムなどのCO2(二酸化炭素)濃度を可視化し、室内の換気状態を良好な状態に保つことで、新型コロナの感染予防に繋げるための共同実証実験を行っている。

 また、大学の図書館内に設置するアクティブラーニングスペースには、CO2センサを含む194台の環境センサが常時配置されており、そこで蓄積された約3.5年分のビッグデータを室内環境の分析・予測の研究に活用している。

 今年度の入学式では、20台のCO2 センサを使った式場内のCO2 濃度分布のリアルタイム可視化を行い、また、地下のライブハウスのような特殊な空間における新しい換気方法を提言するための実証実験をアイドルグループ「仮面女子」と共に行っている。

 さらに4月からは調布市のワクチン接種会場での三密を回避するため、会場内でのCO2 濃度のリアルタイム可視化も行っている。

 今回の研究結果を受け、同大ではクラスターが発生した宮城県内の事務室について管理者に適切な換気方法を指導すると共に、4個のCO2測定器を現地に導入。測定器は同大からリアルタイムでモニタリングし、既定の値を超えた場合は担当者に通知するという改善策を実施した。

 この結果、この事務室ではCO2が1000ppmを上回ることはなく、適切な換気が維持されている。

 同大では、今後も公共空間での安全安心を支えるため、CO2の測定・可視化が広まり、適切な行動変容に繋がり、新型コロナの感染拡大防止になることを期待している。

https://www.cyzo.com/2021/06/post_281131_entry.html