東京五輪の競技会場に、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言中の大規模イベント観客数条件を当てはめた場合、観客数が延べ約310万人になることが本紙の試算で分かった。五輪での観客入場は菅義偉首相が前向きな発言をしているが、医療の専門家から大量の人の流れが感染拡大につながるとの懸念が相次いでいるほか、チケット再販売などの課題がある。(原田遼、藤川大樹)

◆「5000人」を上限に試算
 パラリンピックを含めた大会期間中、選手と海外からの大会関係者約9万3000人以外に、ボランティアら国内関係者延べ約30万人が出入りすることが分かっている。
 国の基準では、緊急事態宣言中の大規模イベントは「収容人数の半分」か「5000人」の少ない方で開催され、プロ野球やサッカーJリーグは5000人が入場可能となっている。
 本紙はその条件を五輪に当てはめ、競技が行われる19日間の観客数を試算。国立競技場など収容1万人以上の24会場は5000人、その他の収容1万人未満の会場はそれぞれ半分の人数で設定し、各競技日程に応じて足した。
 五輪の観客を巡り、東京都医師会の尾崎治夫会長は5月27日の記者会見で言及。プロ野球などが全国で分散開催されるのに対し、大会は連日42もの会場で行われることや、25会場が都内に集中することなどを踏まえ「今の状態であれば無観客開催が最低限の話」と述べた。
 さらに、観客を入れた場合は熱中症の恐れが生じるため、医療従事者の負担が増えるとも指摘した。
◆国や大会組織委の方針は曖昧なまま
 国や大会組織委員会の方針にはぶれが見られる。3度目の緊急事態宣言発令直後の4月下旬、組織委の橋本聖子会長は会見で「無観客も覚悟している」と発言。一方、菅首相は5月下旬の会見で、プロ野球などを例に「対応はできると思っている」と入場に前向きな姿勢を示した。
 観客数の上限は当初は4月に決定予定だったが、「5月に」「6月のできるだけ早く」「宣言が明けてから」と次々と先送りに。感染が落ち着いた時期に決めたいとの思惑があるとみられ、組織委幹部は「大会成功を演出したい官邸の意向では」と話す。
◆無観客ならばスポンサー反発 観客が入ればチケットで混乱
 「無観客」ならば大会スポンサーの広告効果も薄れる。財界関係者によると、組織委が4月下旬に行ったスポンサー合同説明会では、各社から「なぜ今になって無観客と言うのか」「商品キャンペーンと絡めて販売したチケットはどうなるのか」など反発が相次いだ。
 観客を入れる場合、チケットも懸念材料だ。既に約400万枚を販売済みだが、再抽選が必要になる可能性がある。組織委はコンピューターシステムの準備を進めているというが、席の配分や連番チケットの扱いなど不明な点が多い。
 本紙が「短期間で間に合うのか」と質問したところ、組織委は「状況に応じたさまざまな検討をしている」と回答するにとどまり、「間に合う」との明言はなかった。

東京新聞 2021年06月07日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/109040