産経新聞 6/19(土) 21:00

大手日用品メーカー「ユニ・チャーム」(東京)が開発した「顔がみえマスク」が同社のダイレクトショップ(販売サイト)のみの告知にもかかわらず大好評で、初回発売時はわずか7時間で3千枚が完売した。6月8日から始まった2回目の販売も速いペースで注文が入り、販売終了になった。マスク製造でも大手の同社だが、今回の商品は国内工場での完全な「手作り」で、生産数限定はこのためだ。開発のきっかけは聴覚障害のある女性社員と高原(たかはら)豪久(たかひさ)社長とのメールのやり取りだった。

■コロナ禍マスクの弊害

新型コロナウイルス感染症拡大対策として、マスク着用が常態となった昨年7月、同社のグローバル人事総務本部で働く杉本あゆみさんに、高原社長からメールが届いた。

高原社長は日ごろから全社員の誕生日に祝福メールを送っており、杉本さんにもそれが届いたのだ。

杉本さんは生まれつき聴覚障害があり、マスク着用の習慣が根付いてからというもの、普段の業務に支障が出ていた。高原社長からの誕生日メールに、「相手が何を話しているのか、口元が見えないので分からず困っています」という内容を、謝辞とともに返信したという。

マスクを着用すると顔の半分が覆われ、口元はもちろん、表情も分かりづらくなる。会社の仕事はオンラインでのやり取りが増えたが、パソコンから出る音は聞き取りづらく、ほとんど分からないという。このため、急ぎのコミュニケーションに対応できない状況になってしまっていた。

杉本さんは自ら対処しようと、パソコンのスピーカーの音を補聴器につなげてみたり、「マスクを取っていただけませんか」と相手にお願いしたりしたという。しかし、これも相手が複数の場合は言い出しづらい。

杉本さんの母親が娘の窮状を知り、市販のマスクを切り取って透明なフィルムを張ったマスクを自宅でミシンを使って作り、手渡してくれた。杉本さんは周囲の人たちにそれを配り、つけてもらうようお願いしていた。

■トップダウン限定生産

フェミニンケア商品やベビー用品などを主力とする同社には、ソーシャルインクルージョン(共生社会を実現する理念)がもともとあるという。

同社企画本部広報室の渡辺仁志さんは「困っている人が身近にいることを知った社長のトップダウンの指示だった」と、顔の見えるマスクづくりが一気に加速した経緯を話す。

「ビジネスとしてのパイは小さいと思われるし、実は改善点はまだあるのだが、とにかく困っている人に早く届けたい一心でつくった」

同社の人気商品「超立体マスク」「超快適マスク」といった既存商品の技術を集め、口元や顔を見ることができるマスクは、メールのやり取りから5カ月後に完成した。

杉本さんが商品化について知ったのはこの頃で、「まさかメール1本で」ととても驚いたという。

新商品はPET(ポリエチレンテレフタレート)シートの透明部が広く、目の中央から下を100とした場合、80%が見えるのが最大の特徴。曇り止め加工を施している。

また、全方位フィット構造のため、布部が顔に密着し飛沫(ひまつ)が飛びにくい。布部分は中性洗剤で洗うことができ、透明部も曇り止め性能が落ちた場合は、市販の曇り止め用品を塗るなどすれば、繰り返し使用できる。

「顔がみえマスク」は現在、国内工場で手作りしており、生産量は多くない。初回の販売開始は4月27日で、3千枚限定だった。同社の販売サイトのみで告知したところ、わずか7時間で完売。需要の高さが浮き彫りになった。

※続きはリンク先で
https://news.yahoo.co.jp/articles/fbdc24466e23bd134c99a1a664658d35ea83727f
「顔がみえマスク」と看護現場のイメージ(ユニ・チャーム提供)
https://i.imgur.com/YLQKs0f.jpg