新型コロナウイルスワクチンで、日本は米ファイザーや米モデルナなど海外メーカーから提供を受けているが、コロナ対策でもう一つの開発競争の舞台となるのが治療薬だ。変異ウイルスにも対応できるという期待の研究成果も出てきたほか、承認申請を視野に入れる薬剤もある。国産治療薬の開発はどこまで進んでいるのか。

 富山大の研究チームは多種類の変異株が体内で増殖するのを防ぐ中和抗体の作製に成功したと発表した。新型コロナの回復患者のうち強い中和抗体を持つ患者を選定。抗体を作る「B細胞」から抗体遺伝子を取り出して遺伝子組み換え抗体を作り、特に強い抗体を特定、「スーパー中和抗体」と命名した。

 研究チームの一員で、富山大学術研究部医学系の仁井見英樹准教授は「軽症から中等症の患者に投与して重症予防できることは確かだ」と語る。

 製薬会社との共同で実用化を目指すが、成功すれば現時点で中和抗体を用いた治療薬は国内では初となる。仁井見氏は「中和抗体は、もともと回復患者から取り出したためにシンプルに効果が説明できるので、(今後の進展も)早いのではないか」と話す。

 今後は安全性の試験や治験などの段階を踏むが、仁井見氏は「米国では中和抗体による治療が流行から1年経たずに緊急使用許可された。日本も柔軟に対応していただけるのではないかと期待している」と見据えた。

 厚生労働省によると、現在国内でコロナ治療薬として認められているのは、エボラ出血熱の治療薬「ベクルリー(レムデシビル)」や、重症感染症や間質性肺炎の治療薬「デカドロン(デキサメタゾン)」など4種類。元厚労省医系技官の木村盛世氏(感染症疫学)は「国産の治療薬の方が供給面で安定する。基礎研究の蓄積にも重要だ」と指摘する。

 新たな承認を目指して国内企業で治験を実施しているのが、中外製薬の関節リウマチ治療薬「アクテムラ」(トシリズマブ)。4回の治験のうち、国内の治験で患者入院期間の短縮が認められた。海外では1つの治験で効果が認められ、残り2つでは結果が出なかったという。同社担当者は「どういうタイミングで、どういった患者に投与すると治療効果が認められるのか明らかにする必要がある。総合的に解析して申請できるか検討している」という。

 同社は新薬開発にも注力している。2つの抗体を組み合わせた「抗体カクテル療法」の海外治験では、外来患者の入院リスク減に約70%の効果があったほか、感染者の家族など濃厚接触者を対象とした発症リスク減が約81%という結果だった。アクテムラと合わせ年内の申請を目指す。同社はC型肝炎を想定して研究開発が進められていた経口摂取の抗ウイルス薬「AT−527」も第3相試験を実施している。

 気管支ぜんそくの治療薬「オルベスコ(シクレソニド)」(帝人ファーマ)、急性膵(すい)炎の治療薬「フサン(ナファモスタット)」(日医工)なども承認を目指している。

 ただ、ある医薬品メーカー関係者は治療薬開発の難点として「ワクチンの普及と患者の減少で治験が進まない可能性がある」と明かす。

 期待の高かった薬剤も進捗(しんちょく)は思わしくない。新型インフルエンザなどの治療薬「アビガン(ファビピラビル)」(富士フイルム富山化学)は昨年10月にコロナ治療薬として承認申請されたが、有効性を明確に判断することは困難として継続審議になった。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智北里大特別栄誉教授の研究を元に開発された抗寄生虫薬「ストロメクトール(イベルメクチン)」(米MSD)も申請の段階には至っていない。

 前出の木村氏は「海外のような大規模な治験を実施できるかどうかも課題で、政府は補助金だけでなく、治験へのバックアップも必要だ。日本の感染症医療の向上のための最後の戦いになる」と語った。
https://news.yahoo.co.jp/articles/82f0d5c664c4f875939d0a4a31ef82475eac1b6f