これまで新型コロナウイルスをかなり抑え込んできたオーストラリアで、感染が拡大している。
背景には変異株「デルタ株」が「弱点」をついてきたことがある。

オーストラリアでは、水際対策や強制隔離などの厳しい措置がこれまでほぼ完璧に機能してきた。
感染者が見つかると、当局はすばやく対応した。ロックダウンを実施し、すべての濃厚接触者を特定した。

最大都市のシドニーは、独自の接触者追跡システムのおかげもあり、ロックダウンを回避してきた。
ところがここ2週間で、デルタ変異株がシドニーに侵入。感染者数は1週間のうちに100人以上へと膨れ上がった。

当局は25日、シドニーでロックダウンが必要だと認めた。感染は28日までに全国へと拡大。4つの州とテリトリーで流行が発生している。

4州の州都であるシドニー、ダーウィン、パース、ブリスベンでは現在、ロックダウンが実施されている。
パンデミックが始まって以降で最多となる、全人口の8割近い2000万人以上が、行動を制限されていることになる。

28日には連邦と州の政府が緊急協議を開催。ワクチン接種を進めることで、感染拡大を食い止めるとした。

ただ多くの国民は、なぜ世界でワクチン接種が始まって7カ月もたってから、また制限のある生活に逆戻りしなければならないのかと不満を覚えている。

伝染病学者らはデルタ株について、これまでの変異株でもっとも感染性と伝染力が高いと指摘している。

オーストラリアの水際対策と隔離システムは、昨年後半に変異株が初めて確認されて以降、問題に見舞われてきた。
渡航者らが隔離中、別々の部屋にいたにもかかわらず感染したケースも報告されている。

専門家らは、ホテル内の空気の流れと新鮮な空気の不足を問題視した。

水際で働く職員も弱点となっている。

オーストラリアは、外国からの渡航者にはかなり厳格な対応をしている。
飛行機から降りた乗客は、感染防護具を装着した兵士や警察官、看護師らが出迎え、隔離を実施する。

だが、到着客を運ぶバスの運転手など、空港で働く職員たちには、こうした厳しい対策が取られていない。

シドニーの感染拡大のきっかけをつくった最初の感染者は、乗客から感染した60代のリムジン運転手だった。
彼はワクチン接種もマスク着用も、定期的な検査もしていなかった。当時の規則では、それらは義務ではなかった。

デルタ株の感染力はとても強い。

シドニーがあるニューサウスウェールズ州の当局は、家庭内での感染確率について、これまでの株は25%ほどだったが、
デルタ株は100%近いとしている。商店ですれ違っただけの人から、デルタ株に感染したケースもあるとしている。

メルボルン大学のナンシー・バクスター教授は、「デルタ株は極めて感染力が高い。ワクチン接種をした労働者にも感染の恐れはある」と話す。

また、これまでは感染経路を特定できないケースも多かったと指摘。「(デルタ株は)システムが完璧でも手ごわい。
実際にはシステムは完璧ではないので、ほぼやられっ放しだ」と述べた。

デルタ株の感染拡大は、オーストラリアのワクチン接種の欠陥も浮き彫りにしている。

現時点で接種を完了しているのは成人の5%弱だけ。1回でも接種した人は29%にとどまっている。
オーストラリアはワクチン接種において、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最下位だ。政府の責任を問う声も出ている。

ニューサウスウェールズ大学のライナ・マクリンタイア教授は、「ワクチン接種を完了したより、1回だけ接種した人が多い。さらに多いのがまったく接種していない人だ」と指摘。
「その意味では、国民全体が非常にぜい弱だ」と述べた。

ワクチン接種が進まない理由は、供給の問題、感染率の低さ、アストラゼネカ製の血栓リスクなどがある。

シドニーの感染を拡大させたとされるリムジンの運転手も、アストラゼネカ製を接種するのを怖がっていたと、地元メディアは伝えている。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57648059