「60歳を過ぎたら友人はいらない」弘兼憲史氏、鳥越俊太郎氏らの意見
週刊ポスト2021年7月9日号
https://www.news-postseven.com/archives/20210703_1671568.html

 多くの友人に囲まれて、毎週末のようにレジャーに出かける――若者が思い抱く“リア充”のイメージだが、はたして高齢者にも当てはまるのか。

 内閣府の意識調査でわかった高齢者の「交友関係の貧困」が社会問題として取り沙汰されている。ところが、当事者からは「余計なお世話」との声も聞こえてくる。

〈高齢者の3割「友人いない」〉。政府が2021年度版「高齢社会白書」を閣議決定した6月11日、メディアにそんな見出しが躍った。

 60歳以上への内閣府の意識調査で、家族以外で相談や世話をし合う親しい友人がいるかと尋ねたところ、「いない」と回答した人が31.3%(2015年調査では25.9%)で、アメリカ、ドイツ、スウェーデンと比べて日本が最も高い数字になったという。

 政府は高齢者が地域社会から孤立しないよう社会活動への参加を促す取り組みを推進する方針だ。

 だが──。そもそも友人がいないことは問題なのか。『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』など中高年の生き方に関する著書も多い漫画家の弘兼憲史氏(73)は、「むしろ、なぜ友人が必要なのかを聞きたいですね」と疑問を呈する。

 弘兼氏は、60代に入ると持ち物だけではなく人間関係も“断捨離”して身軽になることを勧めている。

「友人が多いほうが豊かな人生だと思っている人は多いのですが、60歳になってからは信頼できる一握りの友人がいればいいものです。

 交友関係が広ければそれだけ冠婚葬祭なども増えていき、それほど親しくない人にも時間やお金を消費することになります。それでも友人をどんどん作りたいという人は別ですが、実は多くの人が友人関係を減らしたいのが本音です。

 特に男性の場合は、60歳までは仕事の人間関係がほぼすべてだったはず。定年後は気力、体力も衰えてくるので、昔の付き合いの会合にも次第に行かなくなる。仕事を辞めれば友人がいなくなるというのは自然な流れだと思います」

 友人がいないことは、決して恥ではないのだ。

「傷の舐め合いはいらない」
「友人がいないという感覚は、なんとなくわかります」。そう語るのはジャーナリストの鳥越俊太郎氏(81)だ。年齢を重ねることで、友人関係の変化は実感していると言う。

「僕も75歳ぐらいまで現役で仕事をしていましたし、第一線から退いたからといって新聞記者やメディア関係者など付き合いがなくなるわけでもありませんでした。ただ、80歳に近くなると、さすがにそうしたことも減っていきます。今でもぽつぽつと会食する機会はありますが、社会の日常活動からは一歩外れてしまったとは感じます」

 現役時代には想像もしなかった世界に立たされていると鳥越氏は語る。

「友人と付き合うにも、どこかに出かけるには体力が必要だし、ある程度お金に余裕があるほうが動きやすい。でも体力もお金も減ってくれば外に出るのも友人と会うのさえもおっくうになってしまいますよ」

 芸能界から財界まで幅広く交流のあるファッションデザイナーのドン小西氏(70)は、終活の一環として、人間関係をダウンサイジングした。アドレス帳に登録された5万人を280人まで減らしたと言う。

「仕事も人間関係も、今は要らないものは捨てて質を重視しています。LINEの連絡先も200人くらい消しましたが、面白いことに、社交辞令で適当に返事をするために使っていたスタンプを使わなくなりましたね」

 名刺交換をして人脈を築くことが自分の成長につながったのは若い頃の話で、60代、70代となると違う心境になると語る。

「半世紀くらい社会人人生を送ってきて、いざリタイヤすると『この50年は何だったんだ』って人生のほとんどが空洞化したような気分にさせられるんだ。だから急に家族愛に走って孫の面倒をみようとして迷惑がられる人もいる。

 友人関係をなんとか維持しようとして無理して会って、傷の舐め合いをする人も多いよ。そんな場での会話といえば、月並みな世間話に、ありふれた時事ネタ、政府やテレビに出ている人の批判で終わる。つまらないし、虚しいだけ。そんなどうでもいい友人はいらないと僕は思っている」