この数カ月、菅義偉首相が最も避けようとしてきた五輪シナリオで着地せざるを得なかった。8日、決定した「緊急事態宣言下の無観客開催」。開幕の約2週間前まで有観客開催への執念を見せたものの、結果として新型コロナウイルスのリバウンド(感染再拡大)封じ込めに失敗し、万事休す。「コロナに打ち勝った証しの東京大会」を掲げ続けてきた首相は、窮地に立たされた。


 「緊急事態宣言の下で、異例の開催となった。新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ世界が一つになれること、そして全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていけることを東京から発信をしたい」。午後7時からテレビ中継された記者会見で、首相は東京五輪についてこう述べ、開催意義を重ねて強調した。

 政府分科会の尾身茂会長ら専門家が「無観客が望ましい」と提言する中、最後まで有観客開催の道を探った首相。感染力が強いインド由来の「デルタ株」の拡大に警鐘が鳴らされていた6月下旬、3回目の宣言を解除してまん延防止等重点措置に移行したのも、五輪の環境整備の意味合いが強かった。

 「1日100万回」ペースでワクチン接種を急加速させることにより、リバウンドを制御可能なレベルに抑え込んだまま、東京大会に突入していく。一時期、奏功するかにも見えた官邸のこの戦略だが、都内の新規感染者数は毎日じわじわ上昇を続け、ついに7月7日に崩壊を迎える。「920人ショック」だった。そして急転直下、4回目の緊急事態宣言決定−。

      ■     

 この日の会見冒頭。首相はコロナ禍の現状認識を「宣言解除から3週間で再び宣言に至り、国民の皆さまにさまざまなご負担をお掛けすることは大変申し訳ない。しかしこの期間を乗り越え、必ず安心の日常を取り戻すとの決意で取り組む」と話した。

 宣言は、後手に回りリバウンドを許した落第点と、五輪の有観客開催にとどめを刺すことの両方を意味し、選択される可能性は低いと見る向きもあった。現実主義者とされる首相。防疫措置を東京大会に優先させた、との強い姿勢を示そうとしたのか。官邸筋は、国民向けに「首相が起死回生の『アナウンス効果』を狙った」。また、別の政府関係者は「重点措置で乗り切るつもりだったが、宣言に踏み切れば五輪の観客などややこしい問題を全て解決できる。妥協の産物だ」と明かす。

 報道各社の世論調査を見ると、一定割合の国民が五輪の無観客開催を支持してきた。だが、コロナ対策と絡み合い二転三転の末にそこに帰結した政治的プロセスを、どこまで世論が受け入れるかはまた別問題だ。8日の衆院議院運営委員会で、野党議員は「コロナの抑え込み、政策に失敗した。宣言下で安全安心な五輪と言われても、説得力が全くない」と声のトーンを上げ、政府の対応を引き続き検証していく構えを強めた。 

写真
https://amd-pctr.c.yimg.jp/r/iwiz-amd/20210709-00010001-nishinpc-000-4-view.jpg

7/9(金) 10:13 西日本新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/7f50fbfd81f855995d3a6b3596096408014daa7e