「ヤバい、これ、ちょっと癖になりそう……」
そんな言葉が私の頭をよぎったのは、6月某日のことだ。


この日、私はzoomの「オンライン研修」で、「模擬生活保護申請」をしていた。私が「役所の意地悪な職員」役となり、生活保護を申請したい人を妨害するというロールプレイである。

なぜこのようなことをしたかと言えば、7月10日、11日に第二東京弁護士会と「女性による女性のための相談会」実行委員の共催で、「女性のための生活、仕事、子育て、なんでも相談会」が開催されるからである。
相談会で生活保護申請が必要になった時のために、これまで申請に同行したことがない弁護士さんや支援者の人たちを対象として、「生活保護申請するとこんな感じ」というのを実演して見せたのだ。


一部役所の窓口では、いまだに「若いから働ける」「もっと大変な人がいる」などの形で生活保護の相談に来た人を追い返す「水際作戦」がまかり通っている。
この十数年間、数多くの水際作戦を経験し、役所の意地悪なやり口を散々見聞きしてきた経験を生かし、「なんとしてでも来た人を追い返したい職員」役を演じたのである。申請者役を演じるのは、支援者や弁護士さんなど。


研修をやってみて(この日は二度目だった)、私の中に確かに芽生えた感覚があった。一言でいうと、「気持ち良さ」だ。

申請者役を演じる人は、決まって弱々しく窓口に現れる。実際、生活保護申請の窓口に来る人で高圧的な人などほとんどいない。多くが「申し訳ない」と身を縮めるようにしてやって来る。
そんな人に対して、「意地悪な職員」役の私は追い返す気満々で専門用語を連発する。家賃が払えないという人には「住居確保給付金を使えばいい」と言い放ち、残金がない人には「社会福祉協議会の特例貸付がある」など「借金」を勧める。

それも使い果たしたという人には、特例貸付を上限まで使い切った人への給付金の話をする。それでも食い下がる人に対しては、「他法他施策の活用」など、耳で聞いただけでは意味不明な用語を次々と駆使し、
また若い世代には「若いから働ける」とハローワークに行くことを勧める。そうして時に「あなたより大変な人はたくさんいる」「家賃を滞納してても立ち退き訴訟を起こされてないなら大丈夫」などと適当なことを言いまくる。
そうして相手が黙り込んだところで「じゃあ、これで」と席を立とうとする。困り果てた様子で取り残される申請者役。

圧倒的に力の差がある相手を黙らせ、追い返す役をやってみて、不思議な「万能感」に包まれた。


さて、「意地悪な人役」をやってみて、「これは癖になる」と思ったわけだが、もうひとつ、強く思ったことがある。

それは、このロールプレイ、生活保護行政に関わるすべての職員にこそやってみてほしいということだ。
演じるのは、生活保護の申請に来た人の役。自分があらゆるものを失い、窓口の反対側に座った時、どれほど心細く、どれほど職員の一言一言に心をえぐられるか、どれほど力の差があるか、身をもって感じてほしいのだ。

以前、学校でいじめについてのロールプレイをし、誰もが「いじめられっ子」役を演じた結果、いじめが減ったという話を読んだことがある。
自分がつらい思いをして初めて、気づくこと、見えてくるものがある。いじめだけじゃない。学校の先生が生徒役を演じ、上司が部下役を演じるロールプレイをすれば、暴言やパワハラは確実に少なくなるだろう。


2021年7月7日
https://maga9.jp/210707-1/