タカアキさんは東京都内に複数の店舗を持つコンビニ店長だ。週4日は午後9時〜翌朝5時の夜勤をこなす。夜勤だけではない。毎月の労働時間は300時間を超える。
会社員の平均的な所定労働時間は月160時間前後。これと比較すると、タカアキさんの1カ月間の残業時間は、厚生労働省が定める過労死ライン80時間を軽く超えていることになる。

タカアキさんは夜勤を終えると妻と店番を交代し、数時間眠る。昼すぎに起き、洗濯や買い物を済ませると夕方から再び数時間眠って夜勤に備える。

貴重な睡眠の間に店のアルバイトからの電話で起こされることもたびたび。
「返金処理の仕方がわかりません」「コピー機が故障してしまったんですが……」「チルド商品の返品はどうしたらいいんでしょうか」──。

妻の体調が悪かったり、アルバイトが突然辞めてしまったりしても、年中無休が売りのコンビニを閉めるわけにはいかないから、タカアキさんが穴埋めするしかない。何日も家に帰れないことも珍しくないという。


コンビニ経営が厳しくなった原因の1つは、人件費の高騰である。タカアキさんがコンビニ経営を始めたのは30年前。1990年度の東京都の最低賃金は548円だった。
現在は1013円だから、この30年間でほぼ倍になったことになる。「この間、人件費にかかる経費は1店舗当たりで月20万円増えました」。

もう1つは、コンビニの出店ラッシュで1店舗当たりの売り上げが下がったことだ。タカアキさんの年収は当初は約500万円だったが、現在は約300万円。出ていくお金が増え、入ってくるお金が減る。となると、オーナー自らが身を粉にして働くしかない。
ちなみにコンビニ本部に払うロイヤルティーは売上総利益を基に計算するので、人件費が増えようが、1店舗当たりの売り上げが減ろうが、本部は基本的に痛くもかゆくもない。


タカアキさんは大学卒業後、自動車販売の営業担当者として働いていた。このときの顧客の1人からコンビニ店長にならないかと声をかけられたのが、コンビニ業界に入るきっかけだった。

売り上げがよい月は会社員時代の手取りよりも10万円も多い収入を得ることもあった。しかし、1990年代半ばを過ぎるとコンビニ店舗が急増。
2000年代後半からは東京の最低賃金は前年比20〜30円増のハイペースで上がっていったと、タカアキさんは解説する。

「年収300万円といっても実際の手取りは200万円を切ります。これ以上、経費が膨らむと私たちが食べていけません。それに、コンビニ本部に声を上げたせいで解約されたお店もあります」


2021/07/15 9:00
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