デルタ変異ウイルスのまん延により「第5波」が引き起こされています。
その最大の課題の一つとされる「中等症患者の受け入れ困難」は、どのように起きているのか。現場のリアルを聞きました。


神奈川県西部にある足柄上病院のコロナ専用病棟。


ーー「経験したことのない状況」と感じられていると聞きました。これまでと、何が違うのでしょうか。

(岩渕)第5波の最大の特徴は、ウイルスの感染力が強くなっていること。そして、30〜50代の若年層にも重い肺炎が増えたことです。
当地域では高齢者のワクチン接種が進み、高齢者の入院は激減しているのですが、それにも関わらず入院患者は増える一方です。

一方で良い変化もあります。以前と比べて、治療に使える薬剤などの選択肢が増えていることです。
すっかり治すような根本的な治療薬はまだないのですが、重い肺炎が起きるのを防いだり、命に関わる血栓(血のかたまり)が出来ないように
コントロールする治療が出来るようになってきました。

また、これまでなら人工呼吸器を使わなければならないほど状態が悪化した患者さんにも、
ネーザルハイフロー療法(鼻に入れた短いチューブから高流量の酸素を供給して呼吸を助ける治療)を使用することで、
最も症状が重い時期をしのぎ、そのまま回復して退院する例も増えています。


ーーSNSなどでは、デルタ変異ウイルスは死亡者が少ない、弱毒化しているのでは?という声もあるようです。

(岩渕)実際の患者さんを見ている限り、そうは思えません。患者さんが若くなり治療期間を乗り切る体力があること、
そして治療法が増えてきたことが、死亡者が少なくなる要因ではないかと思います。

例え若い人であっても、肺炎が悪化し酸素が低下した状態で放置すれば、亡くなるリスクは当然あるでしょう。
中等症の患者さんが急増していることで、スムーズに入院して治療を行えないケースが出てきています。
この状況が続けば、治療の遅れにより重症化してしまったり、命を落としてしまったりする方が出てくることを危惧しています。


ーーワクチンの効果は実感されていますか?

(岩渕)はい。今のところ当院では、ワクチンを2回接種した後で入院した方はおりません。
この状況でまだ救いなのが、これまで一定の割合で存在していた、重症化し入院が長期化するご高齢の方の入院や、
高齢者施設からのクラスターによる入院が激減したことです。

もし、今の状況で高齢者のワクチン接種が行われていなかったら、想像もしたくない壊滅的状況になっていたと思われます。


ーー現場にいる立場から、何か伝えたいメッセージはありますか。

(岩渕)体制を変えるのも必要かもしれませんが、根本的に重要なのは「感染機会の減少」と「ワクチン接種率の増加」です。
それはもう聞き飽きたよと思われると思いますが、この狡猾なウイルスは、その心の隙につけこんでくるんです。

・外で人と接する時はマスク着用

・同居家族以外と会食をしない

・手指消毒の励行

・密を避ける

ワクチン接種率が十分に上がるまでは、こうした感染機会を避ける行動を、地道に続けていくしかありません。

この記事を読んでくださったみなさまにも、どうかいま、それぞれのお立場で出来る感染対策を行っていただくようお願い致します。
私も医療者として今日も一日、自分ができることをやっていきます。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_610c850be4b05f815707c234