「絶賛」される日本のコンビニ 五輪海外メディアが「死ぬほどおいしい」 重労働など「影」の部分も知って

 東京五輪で来日した海外メディアが、競技以外に興味を募らせているものがある。街中の至る所にあるコンビニエンスストアだ。総菜や日用品の品ぞろえ、質の高さは日本独特のようで、記者らがインターネット上で積極的に発信している。しかし、「ニッポン、スゴイ」と浮かれてばかりいられない。コンビニ業界にはさまざまな課題が山積している。(榊原崇仁)

 「五輪における極上の食事は、いかなる時もセブン―イレブンだ」。カナダ放送協会のサイトに、そんな見出しのコラムが掲載された。執筆したデビン・ハーロウ記者はツイッターで連日、コンビニで購入した食事を写真入りで紹介し、「サンドイッチコーナーはトロントのどの飲食店より上かもしれない」などと書いている。
 シンガポールのジャーナリストは「ローソンのフライドチキンは死ぬほどおいしい」とツイート。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)にも「コンビニに誘惑されない日はほとんどない」と記したコラムが載った。
 米国生まれのコンビニが日本に登場したのは1974年。東京・豊洲にできたセブン―イレブンの1号店がそうだ。現在、主要コンビニ7社の店舗数は約5万6000店にまで増え、年間売上高は10兆円を突破した。
◆「中食なかしょく」充実 品ぞろえで日本が圧倒
 日本のコンビニにはどんな特長があるのか。流通アナリストの渡辺広明さんが挙げるのは、総菜類や弁当類に代表される「中食」の充実ぶりだ。
 海外のコンビニでもホットドッグやサンドイッチなどを扱ってはいるものの、渡辺さんは「向こうと違うのは圧倒的な品ぞろえとおいしさ。日本の場合、ニーズに合わせた開発にたけており、店頭に並ぶ商品も客の好みに応じて、頻繁に入れ替えている。品質の高い中食を用意するため、専用の工場で加工して1日2、3回、できたてを配送してもいる」と解説する。
 米国で13年暮らした明治大の海野素央教授(異文化間コミュニケーション論)は「あちらの店は女性のストッキングや男性の下着は扱ってないし、書籍もなかった」と振り返る。
 「治安が悪い所だと、出入り口のドアが鉄格子状になっていた。窓にも鉄格子が取り付けられ、『人を殺すのをやめよう』と書かれたポスターもあった。そんな店に行っていた人が日本のコンビニを訪れたら衝撃を受けるはず。夜に1人で買い物をする女性がいるなど、安全面に対する意識が全く違うから」
◆夜中の酔客対応、収入面でも苦労
 その一方、武蔵大の土屋直樹教授(人事管理)は「日本のコンビニ業界は労働環境が厳しい。賃金水準が低いのに、従業員はトイレの清掃や夜中の酔客対応にも追われる。丁寧なのが当たり前と思い込み、上から目線で物を言う客もいる」と説明する。
 さらに「オーナーも苦労が絶えない。コンビニの従業員は大変との認識が広まっていて人手を確保しにくい。自分や家族が夜中に店に出るケースが目立つ」と語る。また、本部へのロイヤルティー(加盟店料)として粗利益の多くを取られてしまい、収入面でも苦労しがちになる。
 海外メディアに「光」の部分が持ち上げられ浮かれる空気が広まっても、「影」の部分から目をそらすわけにはいかない。土屋さんは「労働環境の問題が知られるようになればコンビニ各社も重い腰を上げ、改善に向けた努力をするはず」とし、「スゴイ」の裏にある苦労に多くの人が関心を寄せるべきだと訴えた。

東京新聞 2021年8月7日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/122511