『ワクチン、若年層の2割弱「接種しない」 都が調査結果』朝日新聞が8月26日に報じたこのニュースに対し、一部で批判の声が上がっている。

大阪大学特任教授で新型コロナ対策の政府分科会メンバーでもある大竹文雄さんはTwittterで、
「この見出しのつけ方が、若者のワクチン接種率に大きな影響を与える可能性について報道機関は真剣に考えるべきだと思います」と指摘した。

ワクチン接種を多くの人が望む中で、報道が抱える課題とは何か。


見出しのつけ方について問題提起した大阪大学の大竹文雄さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、次のように語る。

「若者の2割弱が『接種しない』と回答したこと自体は事実です。しかし、一方で、『接種しない』とはっきり回答しなかった人は『わからない』という人を含めて8割強いますし、
『接種する』と回答した人も6割強います。少しでも接種率を上げる必要があるという状況で、2割弱が接種を希望していないということを問題視する記事であるという趣旨については理解しています。
しかし、接種率を上げるためには『接種しない』という人の比率を強調することは逆効果です」

「私たちの意思決定や行動は社会規範にかなり左右される。我々の研究でも、自分と同世代で接種を希望する人が多数であるということを知ると、
接種を希望する人が増えるということがわかっています。一方で、『接種しない』と答えている人が2割もいると強調することは、
自分も不安だから接種はやめておこうという意思決定を強化する方向に力がはたらく可能性があります」

「接種しない」と回答している人の間にもグラデーションが存在する。何が何でも接種しないという意思を固めている人も存在するが、
「多くはそれほど強い拒否反応を持っているわけではない」と大竹さんは言う。

また、「わからない」と答え、接種について決めかねている人も2割弱いる。
こうした態度を決めかねている人々の意思決定に、「若年層の2割弱は接種しない回答した」という情報は大きな影響を与えかねない。

「接種をしたくないと考えている人々が一定数存在する、という指摘をしたい、という問題意識についてはよくわかります。
ですが、一般の人に伝える際にはその表現が人々の社会規範にどのような影響を与えるのかまで考える必要があるのではないでしょうか」

朝日新聞は、20代男性の「感染しても重症化しないと思うから」、30代女性の「副反応が心配」といった声と並列で
「感染しないと思う」「効果に疑問がある」「ワクチンは有害」といった声を紹介している。

しかし、「感染しないと思う」と答えたのは全体の4.1%、「ワクチンは有害だから」と答えたのは全体の7.4%に止まっている。

大竹さんは「記事を中立の立場で書くということは大事なことかもしれないが、
接種を希望する多数派の意見と接種を望まない少数派の声を単純に並べて書くことは否定的な声を過大に強調してしまう可能性がある」と指摘。

あくまで、多数派は接種を希望していることを数字と共にしっかりと伝える必要があるとした。

「接種をしたくないと考える少数派の気持ちを汲み取りたい、寄り添いたいといった気持ちもよくわかります。
ですが、今回のアンケート結果では、多数派の若者は、副反応があったとしても、自分が感染しないため、
他の誰かに感染させないために接種を希望していることを強調すべきだと思います」


「情報が与える効果は皆さんが思っている以上に大きなものです。何かひとつの情報が意思決定を大きく変えてしまうこともある。
少数派の思いに寄り添いたいと思って書いた記事が、もしかすると多数派の人の気持ちを踏みにじることになるかもしれません。
メディアは報じ方が社会規範へと与える影響を十分に考慮していただきたいです」

BuzzFeed Newsは朝日新聞社に対し、今回の報道に対する批判への見解を質問している。回答があり次第、追記する。
https://news.yahoo.co.jp/articles/60f3c810c2bfa34cd6d5d305ed6aabd4b04695c6

ワクチン、若年層の2割弱「接種しない」 都が調査結果
https://www.asahi.com/articles/ASP8V5TZHP8VUTIL03X.html