【ドバイ】近年、遺伝子解析は非常に人気がある。家庭用の検査キットが普及したことで、何世代にもわたって家系をさかのぼり、驚くほど正確に遺伝子の起源を描き出すことができるようになった。

しかし、これらのサービスで個人の遺伝子のルーツを特定するためには、膨大なDNAデータが必要だ。欧米ではこの手の検査が普及し、より正確な遺伝子情報が得られるようになっているが、東洋ではまだそこまで普及していない。

現代のアラブ人の遺伝子の起源は、常に謎に包まれている。これまでは、アラブ民族の移動ルートや民族間の交配については、DNAよりも楔形文字から得られる情報の方が多かった様に思われる。

しかし、遺伝子解析は、人類学的な知的欲求を満たすだけでなく、遺伝性疾患の治療や予防など、医学的にも重要な役割を果たす。

3年前、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、英国の科学者が初めて協力して、12万5千年前の中東の遺伝的遺産と健康状態に関する遺伝子マップを作成した。

その結果、この地域では一般的だが世界的には珍しいとされる数百万もの新しい遺伝的差異が発見された。この過程で得られた知識により、この地域のゲノム構造を極めて詳細に分析することが初めて可能になった。

このプロジェクトの成果は、8月4日に科学雑誌『Cell』に掲載された。中東で初めてヒトゲノム全体をマッピングした、包括的なオープンアクセスのデータセットとなった。

ザ・ゲノミック・ヒストリー・オブ・ザ・ミドルイースト(The Genomic History of the Middle East )の研究に参加した、サウジアラビアのリヤドにあるアンワ・ラボ社の臨床ゲノミクスコンサルタントであるサイード・アール・トゥルキ氏は、「中東ではずっと、こうした研究が十分に行われていませんでした」と語る。

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研究者たちはこの地域の何百人もの人々のDNAを分析し、彼らの遺伝的遺産を再構築した。その結果、現代のアラビア半島の多くの人々は、古代の狩猟採集民や青銅器時代の地域文明の人々を遺伝的な祖先としていることがわかった。

さらに遡るとこの民族は、約6万年前にアフリカを離れた謎の集団を祖先としており、他のユーラシア大陸のゲノムとは大きく異なることがわかった。

今回の発見は、歴史的にも医学的にも価値あるものであり、それにより専門家はアラビア半島における民族移動の影響や、その民族に共通する遺伝的特徴を理解することができるようになった。

「医学的な影響としては、集団のデータが増えれば増えるほど、なぜある集団が高血圧や糖尿病などの一般的な病気にかかりやすいのかがわかるようになります」とアール・トゥルキ氏はラブニュースに語った。

この研究で得られた最も重要な発見の一つは、中東の人々に非常に特有な25万個の一塩基多型(SNP)が発見されたことだ。

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今回の研究では、2型糖尿病に関連する遺伝的差異が発見された。「中東で2型糖尿病の発症率が高いのは、座ってばかりの生活をしているからだ」という以前の仮説を覆す結果となった。

また、サウジアラビア人とイエメン人の60%に、肥満度や高血圧の傾向に関連する別の遺伝子変異が見つかった。

「このプロジェクトがなければ、なぜこれら民族の中に2型糖尿病の発症率が世界で最も高い人々がいるのかを理解することはできなかったでしょう」とアール・トゥルキ氏は言う。

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今回の研究でゲノムの動きをマッピングすることで、レバントやメソポタミアの青銅器時代の人々が、セム語をアラビアや東アフリカに広めた可能性が高いと結論づけられた。

さらに、15,000から20,000年前頃までは、中東全域の人口が同じようなペースで増加していたことがわかった。この頃になるとアラビアの人口増加が停滞し、レバントの人口は増加し続けた。

これは、肥沃な三日月地帯で農業が発達し、人口の多い定住社会が形成されたためであると考えられる。

また、気候変動に伴う乾燥化が、6,000年前のアラビア人の人口減少と4,200年前のレバント人の人口減少と関連していることも明らかになった。

また、現代のサウジアラビア、イエメン、アラブ首長国連邦のゲノムには、乳糖を消化できるようになる独特の変異が見つかっており、乳製品の原料となる動物を家畜として飼うようになったことが原因ではないかと考えられている。(続きはソース)

29 Aug 2021 10:08:10 GMT9
https://www.arabnews.jp/article/features/article_48611/