パンデミックから1年半。世界に誇る国民皆保険制度と病床数を有する日本で、なぜ、病床ひっ迫や医療崩壊の危機が起きているのか?
巨額予算の裏に潜む、日本の医療制度の課題とは?

今週、各省庁による来年度予算の概算要求が締め切られた。総額は111兆円を超え、4年連続で過去最大。
中でも最も要求が大きいのは社会保障費だ。

今年度予算より約6700億円多い31.8兆円となったが、コロナ対策の要求は金額を明示していないので(社会保障の)要求額は、
年末の予算編成までにさらに増えるとみられる。

コロナ禍に見舞われてからこの1年半というもの、安倍、菅政権は3度の補正予算を組み、医療体制の強化に巨額の予算を投じてきた。
にもかかわらず、受け入れ先の病院が見つからず、感染者が自宅療養中に重症化して亡くなる事例が相次いでいる。

コロナ対応にあたる医療従事者や保健所の職員は、命を救おうと懸命だ。
それなのに、先進医療と国民皆保険を誇る日本の医療制度はコロナ禍に対応できておらず、病床のひっ迫や医療危機が叫ばれるのはなぜなのか?


■しり込みする病院

ある財務省幹部は、その理由をこう語った。「コロナ患者を受け入れれば、ほかの患者が来院せず経営を圧迫する、という懸念から、
病院がコロナ患者に病床を空けることをしり込みするからだ」と。

巨額のコロナ対策費の多くは医療費にまわった。政府は重点医療機関に指定した病院に日額で最高40万円台の「空床確保料」を支払っている。
「この補助金を受け取りながら、コロナ感染者を受け入れない“詐欺病院”が一部に存在している。それに何も言わない医師会はひどい」と幹部は憤る。


■厚労省も「見て見ぬふり」

8月下旬、厚生労働省と東京都は、改正感染症法に基づいて病床確保の協力要請を出した。
都内の病床は約8万。それなのに、今回の要請で確保できた病床はわずか150床だった。

東京都が公表している病床の使用率は7割程度のまま、6400床とされるコロナ患者のための病床も3割程度が使えないまま推移している。

現在、自宅療養中の患者は約2万人。補助金を受け取りながら、コロナ患者を受け入れなかったり、
軽症者だけを受け入れる病院があったりするという指摘もある。

別の財務省幹部は、「厚労省が医療界の代弁者になってしまっている。この1年半、ずっと見て見ぬふりだ」とため息をついた。


■見えない「ブラックボックス」

医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏は「日本には約160万の病床があり、人口当たりの病床数は世界一で、感染者数は相対的に少ない。
医療ひっ迫が起きた原因は緊急事態への備えを怠ってきた医療政策の問題」と話す。

森田氏によれば、イギリスなどヨーロッパでは公立の医療機関が多く、政府が病院に直接コロナ患者に病床を空けるよう指示することができる。
一方、日本の病院の8割は民間病院で、政府が直接指示を出せないばかりか、多くの病院の運営や情報管理は病院のトップに任されていて、政府が一元管理することができない。

つまり、「民間部隊が競争しながら乱立している状態」で、司令塔である政府に受け入れ可能な病床がどこにあるか、
医療資源にあとどれくらい余力があるのか、まったくわからない「ブラックボックス」の状態にあるという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9a6b56c93f99422241c9878eacb1cfdc80ccd12d