日本の格差問題を固定化し、かつ深刻化させたのは、80年代から急速に労働現場に浸透した非正規労働者の存在である。
正社員が担っていた仕事の一部を、低賃金の非正規労働者に置き換えていったのだから、格差が拡大していくのは当然のことだ。

今の日本社会を、「格差社会」などという言葉で表現するのは実態を表していない。
格差社会よりもはるかにシビアな「階級社会」へ変貌を遂げていたのだ。

それは、出自や教育環境、就職時期の経済環境などによって階級が決まる「現代版カースト」ともいえる理不尽な世界だ。

厄介なことに、階級格差は親から子へ、子から孫へと世代を超えて連鎖し受け継がれていく。
世襲されることで、格差は加速度的に広がっていくのだ。


橋本教授は、日本社会を形成する階級を、職種や雇用形態などにより五つに分類してきた。
血統や資産を持つ「資本家階級」、大企業エリートやホワイトカラーなどの「新中間階級」、自営業者や家族経営従事者などの「旧中間階級」、単純作業やサービス業・販売業などの「正規労働者」、非正規労働者の「アンダークラス」の5階級がそれだ。
端的にいえることは、コロナ禍は人々に平等に襲い掛かったわけではないということだ

二つの階級──、旧中間階級とアンダークラスに集中砲火を浴びせた。
とりわけ打撃が大きかったのは旧中間階級だ。世帯の平均年収が19年には805万円あったのに、20年には678万円。わずか1年で年収が127万円も激減した。
19年は新中間階級(863万円)と肩を並べるレベルだったのに、20年は正規労働者並み(644万円)まで落ち込んでしまった。完全に「中流」から滑り落ちてしまったのだ。

アンダークラスの惨状も厳しいものがある。もともと低賃金労働が多い階級ではあるのだが、20年の世帯の平均年収は393万円と400万円の大台を切ってしまった。
世帯収入の減少率12.0%と旧中間階級の15.8%に次いで落ち込みが激しい。

貧困率でも、旧中間階級とアンダークラスの厳しさは一目瞭然だ。貧困率とは、低所得で経済的に貧しい状況にある世帯の割合を示す指標のことをいう。
20年の貧困率では、旧中間階級20.4%、アンダークラス38.0%と高止まりしている。

負の影響が偏った背景には、その階級の人々が従事している業種特性がある。

橋本教授は「緊急事態宣言などコロナ対策では、さほど説得力のあるエビデンスもないのに、飲食店、とりわけ酒類を提供する飲食店が狙い撃ちされた。その上、十分な補償も行われなかったため、旧中間階級が経営難に陥った」と解説する。

また、旧中間階級には、装飾品や衣服、家具など不要不急のものを扱う自営業者も多く、やはり経営難に陥っているケースが多い。
そして、これらの飲食店や小売店には、非正規労働者が多く働いている。だからこそ、この二つの階級が打撃を受けたのだ。

ただでさえ、旧中間階級では自営業者の衰退が進んでいる。アンダークラスに至っては、貧困層の拡大に歯止めがかからず、経済的苦境に置かれている労働者は多い。

一方で、コロナ禍が新中間階級と資本家階級へ与えた負のインパクトは世帯の平均年収が下がったとはいえ、比較的軽微だった。
そのため、資本家階級・新中間階級と、旧中間階級・アンダークラスとの「階級格差」はますます広がっていくことになる。


日本社会“階級化”は、異なる階級間の格差を助長するだけではありません。同じ階級間の争いも勃発します。

19年から順次始まった教育の無償化(幼児教育、私立高校、高等教育の無償化)が導入されるとき文部科学省に、子を持つ親世代からクレームが入ったといいます。
「国費で教育支援をするとは何事か。うちの子のアドバンテージがなくなってしまうではないか」という、身勝手なクレームです。

今や、親が子に授けられる最も確実な資産は「金よりも教育」とされる時代。これもまた、見えと嫉妬に満ちた、中流間での階級闘争だといえます。

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2021.9.6 4:05
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