2019年12月13日
『ルトワックの日本改造』訳者解説|奥山真司
https://hanada-plus.jp/articles/255
さて、本書の概略であるが、現在進行中の日本を含むアジア情勢の危機について、とりわけ北朝鮮や中国に関する情勢を中心に、
戦略家としての視点から分析したものだ。
これらを明らかにするために、ここではルトワックの視点を理解するためのポイントを訳者である私が三つ挙げて、
そこから解説を行っていきたい。
第一が、日本にとっての最重要の戦略問題として「子供を増やす」ことを提唱している点だ。まえがきや序章でも強調されているように、
国家が戦略を実行するための最大の基盤が若い世代なのだが、その絶対数が少ない状況では、国家のために戦おうとする戦力
そのものが足りないという認識がルトワックにはある。
これはまさに自身が中東戦争で経験したことであり、まだ建国して間もないイスラエルを助けるために第三次・第四次中東戦争に
参戦したときに、周囲のアラブ系の国家と比べて人的に劣勢であることをつくづく感じ、その後に国家を挙げて人口増加に取り組んだ
イスラエルの姿を間近で見ている点もあるようだ。
日本も以前から、このようなチャイルドケアの重要性が叫ばれているにもかかわらず、それが中々進んでおらず、韓国と共に世界でも
特に少子化が進むスピードが速まっているのが実態である。このような観点から見れば、たしかに日本はここ数十年間において
国策を完全に誤っていたと言える。
第二が、「戦士の文化」を強調している点だ。この概念は一般的な学術書などではほとんど扱われないテーマではあるが、
ルトワックは戦う者の尊厳や誇り、そして殺し合ったもの同士にしかわからない感情的な部分を、自身の分析の中核に据えている。
その典型的な使われ方が見られるのが、第一章の韓国についての分析であり、ドイツとその他の欧州国家との関係性を見ながら、
戦った国同士は過去のことを問題にしないが、戦わなかった(従属した)国はその相手国に対して、戦後になってから厳しい態度を
とると主張している。
もちろん日本と韓国の関係性が、ドイツとオランダのそれにそのまま比較できるものかは異論もあるだろうが、
ルトワックはそこに「相対した者・しなかった者」同士が互いに感じる、数値化できない感情的な問題を鋭く指摘している。
第三に、日本に国防に対する「本気度」を迫っていることだ。これは上記の「戦士の文化」にも共通するが、とりわけ北朝鮮に対する
日本の先制攻撃論とでもとれるような議論を展開する中で、日本に対して「本当に相手に脅威を与える効果的なものは何か」
を真剣に考慮するよう迫っている。とりわけルトワックが強調するのは、リスクを恐れずに作戦を実行するメンタリティーであり、
逆にそれが出来なくなっている国として、実は敗北しつつあるアメリカを挙げている。