さらば正社員 中高年を個人事業主にした電通の「大実験」
毎日新聞 2021/9/21 05:00(最終更新 9/21 08:03)
https://mainichi.jp/articles/20210918/k00/00m/020/131000c

 「人生100年時代」を迎え、中高年以降の「第二の人生」が注目されている。そんな中、広告大手の電通が、40歳以上の一部の正社員を個人事業主に切り替える制度を始めた。対象者は電通を退職するが、10年間一定の固定給を得ながら、自分のやりたいことに挑戦できるという。しかし、そんなにうまくいくのだろうか。いわゆる「リストラ」ではないのか。電通を飛び出した元社員の挑戦から、会社とベテラン社員の新たな関係を探った。【松岡大地/経済部】

目指すは陶芸家
 真夏の日差しが照りつける8月上旬の平日。東京都世田谷区の陶芸教室「祖師谷陶房」で、大谷麻弥さん(54)がろくろを回していた。「陶芸家というにはまだまだですが、会社員時代に比べて、少しずつ上達しています」と笑顔を見せる。来年2月には展示会を予定しており、将来は陶芸家として自立を目指している。

 大谷さんは昨年末まで電通の社員だった。1992年に入社し、18年間アートディレクターとして大手企業の販促ポスターや新聞広告のデザインを担当した。しかし、長男の出産を機に現場を離れ、主に人材開発部で社員の健康管理などをしてきた。

 育児の時間を融通しやすくなった一方で、モヤモヤした気持ちも抱えていた。「人材開発は大事な仕事ではあるけれど、自分に向いているのかなという思いがあった。やはり形ある作品を作りたい気持ちが捨てきれずにいた」。そこで、プライベートで十数年前から陶芸を習い始めると、面白さにとりつかれた。「クライアント(顧客)の仕事ではなく、自分が好きな作品を作れることが面白くて、上達したい気持ちが芽生えた」

 「どこかで早期退職をしよう」。7〜8年前からそう思っていたが、決断できずにいた。「陶芸家として独立するには時間がかかる。うちはシングルで自分が働かないと収入が得られない。中学生の息子の教育費もかかることを考えると踏み切れなかった」

10年間の固定報酬
 そんな中、電通が2020年、新たな人事制度「ライフシフトプラットフォーム」を公表した。この制度で早期退職募集に応じた40歳以上の社員は、…

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