コロナ禍で根拠のない情報が拡散し、社会に混乱を生んでいる実態に迫った連載「『虚実のはざま』第4部・深まる断絶」(9〜15日、計5回)には、
読者からメールなどで100件を超える反響が寄せられた。「問題の深刻さに驚いた」という意見に加え、自身の悩みや不安を訴える声も多かった。2回にわたって考える。

連載4回目では、家族がユーチューブで目にした陰謀論を信じた結果、「コロナはウソ」「闇の政府にワクチンで操られる」と主張するようになり、苦悩する人々を取り上げた。

読者からは「私の家族と同じ。ネットで洗脳され、関係が壊れた」 「我が家も全く会話が成り立たない」などの声が相次いだ。
「どうすればいいのかわからない」という悩みも共通しており、問題の広がりと根深さがうかがえた。

東日本に住む70代の男性はメールに「悲痛」と記し、8月に妻が家を出て行ったことを明かした。

妻が一日中、スマホで動画を見るようになったのは昨年末頃。7月に男性がワクチンを接種したと知ると、
「打った人は体から毒が出る。もうそばにいられない」と言い出し、置き手紙を残していった。

先に陰謀論にはまった親族と一緒にいる可能性があるが、居場所は分からず、電話にも出なくなった。
男性は「50年も仲良く過ごしていたのに……。寂しさと、むなしさしかない」と肩を落とした。

欧米でも同じ問題が起きており、陰謀論に傾倒した家族らへの接し方を心理学者らが提唱している。

▽相手を完全否定せず、情報の根拠を確かめるように促す▽嘲笑しない▽説得や論破ではなく、相手の心の奥に不満や不安がないか理解しようとする――
という姿勢が大事だとされる。人は信じることを否定されると、逆に考えがより強固になる場合があるという。

最近は、陰謀論から抜け出した体験をネット上で発信する人もいる。その内容を基に話し合えば解決の糸口になる可能性がある。

昨秋の米大統領選では、「闇の政府が不正を行った」とする陰謀論が日本で拡散。
発信源だった様々な人物が、今は「ワクチンは人口削減が目的」といった言説を流布するケースも多い。

俳優の 高知たかち東生さん(56)は、米大統領選の陰謀論にひかれた一人。おかしいと気付いたのは、薬物依存経験者の自助グループの仲間からの指摘だった。

高知さんは「早い段階で、信頼する人に『偏った情報だよ』と言われ、素直に聞けた。別の人なら反発していたかもしれない」と振り返る。
今はコロナを巡る不確かな情報を目にしても、過去の経験から信じることはないという。

高知さんは「家族は距離が近く、相手が意固地になることもある。抱え込まず、周囲の人に助けを求めてもいいと思う」と話す。
家族に亀裂が入る状況は、カルト宗教の問題と似ているとの意見も届いた。

こうした声に対し、信者や家族を支援した経験を持つ臨床心理士の戸田京子さんは「関係が切れると相手が戻る場所を失い、孤立化して先鋭化する恐れがある。
『考えは違うけど、あなたを大切に思っている』『心配している』という気持ちを伝え、関係を維持することが大切」と言う。

解決までに時間がかかることも多く、家族の心身への負担は大きい。

先が見えない悩みをSNSに投稿する人も増えており、戸田さんは「当事者同士で交流すると楽になることもある。疲れたら専門家に頼ってもいい」と話す。
日本臨床心理士会などが設ける「新型コロナこころの健康相談電話」にも、似た状況の家族から相談が寄せられているという。

宗教やネットのトラブルに詳しい紀藤正樹弁護士は「ネットの陰謀論で洗脳されるというのは、新たな社会問題だ。
より深刻化する恐れがあり、国や専門家が実態を認識し、相談や支援体制を作る必要があるだろう」と指摘する。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210925-OYT1T50320/
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妻の置き手紙を見つめる男性。「戻ってきてくれたら、時間をかけて話を聞きたい」と言う
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