新型コロナウイルスのワクチン接種がどの程度進めば、一人一人の行動制限はどこまで緩和できるのか。11月ごろに希望する人がほぼ接種を終えると想定し、出口戦略のたたき台を示した政府分科会で、議論の前提となるシミュレーションを公表した京都大の古瀬祐気特定准教授(感染症学)に聞いた。

−シミュレーションは、「理想的な接種率」で接触機会40%減とすればインフルエンザ並みの年間死者1万人になるとした。

 「40%減は、3密の回避やマスク着用で達成できる水準。緊急事態宣言下になかった2020年の夏や年末ごろの生活に近い。これが維持できれば病床が逼迫(ひっぱく)するほどの医療負荷は起きず、“ウィズコロナ”が達成できる可能性がある」

−ワクチン接種が進んでも自粛生活は必要なのか。

 「接種率が高いほど『出口』に向かうのは間違いない。極端に言えば接種率99%なら相当緩和できる。とはいえ、それを達成するのは難しく、現在想定されている程度の接種率だと11月の時点ではコロナ以前には戻れない。仮に一気にコロナ前の生活様式に戻せば年間死者数は10万人を超える計算となり、医療逼迫を避けるため緊急事態宣言などを繰り返す可能性が高い」

−元の生活に戻れるか。

 「今後の感染の波はワクチン接種しない人が中心となる。接種しなかった人も感染して免疫がつくので、最終的には元の生活に近いところまで戻れるという意味で収束するだろう。ただそれは半年後や1年後ではないと思う。新たな変異株発生で長期化する悲観的なシナリオもあり得る。反対に今回の分析では考慮していない3回目の接種や抗体カクテル療法による重症化予防効果で、より楽観的な未来となるかもしれない」

−感染の「第6波」が懸念されている。
 
「この冬には大きな波が来るだろう。早ければ秋の終わりかもしれない。仮に9月末に緊急事態宣言が解除されれば感染者数が減り続ける蓋然(がいぜん)性は高くない」

−インフルエンザと同程度の死者数であるならば、コロナは許容できるか。
 「インフルエンザ死者数が毎年1万人というのは、結果としてそうなっているだけだ。コロナで対策を取らずに20万人が亡くなる社会をわれわれが許容できるのか、それとも1万人程度を目指すべきなのか。また、制限と緩和の繰り返しに経済は耐えられるのか。今すぐというより1年後にどんな社会を目指したいのかという価値観の整理や、行動指針のようなものを一人一人が考え始めてほしい」 (聞き手・前田倫之)

ふるせ・ゆうき
 1983年宮城県生まれ。医学博士。エボラ出血熱流行の際に世界保健機関(WHO)コンサルタントとしてアフリカに派遣されるなど国内外で感染症の研究や対策活動を行う。2021年から京都大ウイルス・再生医科学研究所特定准教授。厚生労働省のクラスター対策班のメンバーも務める。

西日本新聞 9/24(金) 11:51
https://news.yahoo.co.jp/articles/d9bc94004b4cb905f3d4a4c0afce6c843c9c9904

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