1日で発足1カ月を迎えたデジタル庁が、NTTからの接待問題で揺れている。会食から半年以上たった後の支払いを、平然と「割り勘」と説明する平井卓也デジタル相の姿勢に対する疑問の声は絶えない。積極的に民間人を起用するデジタル庁は、他省庁に比べ企業との癒着が起きやすいといえるが、規律をより厳しくしようという姿勢に欠けている。(坂田奈央)
◆半年後、取材を受けての「割り勘」
 「何も隠していないというのが私の立場だ」。平井氏は1日の閣議後記者会見で、「虚偽説明だったのではないか」との指摘に反論した。
 NTTとの会食が明るみに出た今年6月の会見で平井氏は「きっちり払った」と割り勘を強調。「問題がない」と主張していた。だが同席していた赤石浩一デジタル審議官が先月24日付で減給処分を受けたことを契機に、飲食代など計22万円を実際に支払ったのは、会食から半年以上が過ぎた6月21日だったことが判明。それも週刊文春の取材の後だった。
 デジタル庁は当初、赤石氏の処分を公表するのみで、平井氏が同席していたことへの説明を避けた。インターネット上では、平井氏とデジタル庁の対応に、疑問や不信感を示す声が相次いだ。東京工業大の中島岳志教授はツイッターで「これが成立するなら、裏金の授受も『事後的な返還』で問題なくなってしまう」と批判した。
◆「持ち株会社」だから「利害関係ない」
 6月の「割り勘」という説明が理解を得られなくなったためか、平井氏がNTTとの会食について「国民の疑念を招いていない」とする根拠として現在強調するのが、同社と「利害関係はない」という説明だ。
 平井氏の言い分は民間との癒着を防ぐ国家公務員倫理規程に沿った見解で、NTTが事業を直接行わない持ち株会社ということを理由に「利害関係はない」と語る。赤石氏の減給処分は、あくまで計12万円の飲食代が高額すぎるという点が理由とし、NTTとの関係は問題にしていない。
 だが、入札手続きで不適切な行為が8月に発覚した東京五輪・パラリンピック向けの健康管理アプリ(オリパラアプリ)など、NTTはグループ全体で数多くの政府のデジタル事業を受注している。国の入札制度に詳しい上智大の楠茂樹教授は「一般的に(事業会社の親会社である)持ち株会社も、利害関係者とみるのが自然だ」と指摘する。

◆識者「利害関係の定義、厳しくすべきでは」
 発足したばかりのデジタル庁には、国全体のデジタル事業の予算と権限が集中するようになり、事業執行の透明性が求められる。楠氏は「まずは公務員倫理規程の本来の趣旨に立ち返り、利害関係の定義を厳しくするべきではないか」と注文を付ける。
 マイナンバーカードの普及など行政のデジタル化が進まない一因に、政府に対する国民の信頼が低いことが挙げられる。しかしデジタル庁が独自で利害関係者の定義を厳しくすることに対し、平井氏は「(国家公務員)倫理審査会で判断することだ」と話し、新組織の信頼を自ら進んで高めることには後ろ向きだ。

東京新聞 2021年10月2日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/134347