岸田新内閣が4日、発足した。いまひとつ印象が薄い新首相だが、内閣の方はどんなカラーが出たのか疑問が湧く。一方で気になるのが次の衆院選。19日公示の方針という。そんな中、新内閣の特徴や衆院選の意味はどう読み解くべきか。端的につかめるように、識者の皆さんに岸田内閣と次期衆院選のネーミングをお願いした。(古川雅和、木原育子)
◆「ジャケ買いしたく内閣」
 新内閣の命名でまず登場いただくのは、フリーライターの畠山理仁みちよしさん。組織や政党の支援なしで選挙戦に挑む「独立系候補」から首相会見まで幅広く取材する。その畠山さんは「初耳内閣」と名付けた。
 「新大臣を見たことがない、話も聞いたことがない。有権者が初めて耳にすることばかりになるかもしれない」ためだ。そもそも岸田文雄新首相の印象が薄い上、閣僚20人のうち初入閣は13人と多い。「衆院選までに予算委員会が開かれないなら、彼らの考えを聞くことだって難しい」
 在宅医療を中心に手がける医師で文筆家の木村知さんは「ジャケ買いしたく内閣」と命名した。ジャケ買いとは、CDや本などの内容を知らないまま、ジャケットや表紙の印象だけで買うことだ。「前政権の総括や反省もせず、有権者に期待させただけで選挙に突入する。本質を知らせる前に投票させてしまえと考えているようだが、そんなジャケ買いしたくないから」と述べ、自らの思いと内閣のネーミングを重ねた。
 「40代の活躍が難しい世界。その世代の2人の柔軟さに期待する」と話すのはコラムニストの辛酸なめ子さん。2人というのは、44歳の牧島かれんデジタル相と46歳の小林鷹之経済安全保障担当相だ。
◆「年の差課題内閣」に「重しがない内閣」
 その一方、金子原二郎農相と二之湯智国家公安委員長の77歳コンビとの「ギャップが気になる」とも。「70代には人脈も経験もあるが、若い世代とはスピード感も違う。価値観も違うかもしれない。その差を閣内でどう埋めていくのか」と話し、「年の差課題内閣」と命名した。
 「重しがない内閣」と名付けたのは駒沢大の山崎望教授(政治理論)。安倍晋三さんや菅義偉さんの首相時代に麻生太郎さんがいたのと比べ、「この人が閣僚を仕切る、他の閣僚を御すことができる、という人がいない」とみる。さらに「閣僚に共通点はなく、ごった煮の感じ。岸田さんの理念を実現させる重しがない。漬物ならつからないし、船なら転覆する」と不安の船出を口にした。
◆「コミュ力りょくアピール内閣」に「強い突っ込みができない内閣」
 コミュニケーション戦略のコンサルタントの岡本純子さんは新内閣の印象を聞くと「うーん」と一瞬、考え込んだ。「全く個性の見えない無味無臭無色透明な顔ぶれ」だからだ。
 「民間人もいない。この人はこの分野のプロだからという玄人っぽさが感じられない」と分析した。その上で「菅さんの後の内閣だからこそ、岸田内閣には発信力と対話力が問われる。そこで閣内の安倍・麻生色を薄めようとした感じがする。そう考えると、コミュ力アピール内閣ということになるのだろう」。
 早くもいらだちを見せたのは、落語家の立川談四楼さんだ。「有権者が怒りをぶつけたいのは、安倍さんと麻生さん。でもこの2人を内閣の背後に見事に隠している。これじゃ、有権者は煮えきらないよ」と話す言葉に怒りも入り、「どんな内閣だって? 強い突っ込みができない内閣だよ」と嘆いた。

◆「脱安倍菅総選挙」
 新たにスタートした岸田内閣だが、その寿命は衆院選次第だ。自民党が大きく議席を減らせば短命で終わる可能性がある。そんな大切な選挙について、識者の方々はどう命名したか。
 政治ジャーナリストの安積明子さんは「脱安倍菅総選挙」と間髪入れずに言い切った。
 「安倍政権下の森友・加計学園問題や『桜を見る会』を巡る疑惑は、すべてが解明されたとは言えない」と述べ、菅政権でも積み残された問題が大きな争点になると説く。その上で(略)
◆「日本列島全面換気総選挙」「『生きさせろ!』選挙」(略)
◆「震災でもコロナでも変わらない日本でいいのか総選挙」(略)
◆デスクメモ したたかで狡猾でないと首相になれない?
 新首相には失礼な言葉を向けてしまった。印象が薄い、と。実はそうではないかもしれない。識者の方々が言う通り、従来の閣僚をがらりと変え、前政権までの負の遺産を覆い隠したように思える。したたかで、狡猾こうかつなのか。そんな人しか首相になれないのか、この国は。(榊)

東京新聞 2021年10月5日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/134918