コロナ禍で学生生活が制限され、飲み会や旅行も自由にできない我慢を強いられた大学生。選挙のたびに低投票率を指摘される若い世代だが、コロナを通して政治への向き合い方に変化はあるのか。福島市の福島大学を歩いた。

 投開票日を5日後に控えた26日、市中心部から約8キロ南、車で約20分のキャンパスを訪ねた。五つの学類があり、約4300人が通う。感染防止のため、昨年4〜9月の授業はオンラインだったが、昨年10月からは一部を除き対面授業が再開された。

 午前10時過ぎ、購買で買い物中の学生2人がいた。食農学類2年の門馬愛海さん(19)は入学直後、オンライン授業が続き、友達作りも難しかった。「大人はコロナ禍前と同じように出社しているのに、大学生は大学にも行けなかった。旅行や飲み会などの基準は学校任せ。私たちはずっと我慢している。しっかり統一の基準を示して欲しい」と話した。

 一緒にいた後藤優菜さん(20)は選挙について、「候補者の人たちはいろいろな政策を訴えてはいるけど、若者に刺さる言葉はない」と話した。でも、「私は期日前に行ってきました」と後藤さん。「え、そうなの。偉い」。門馬さんは思わず驚いた。

 正午ごろ、昼時になり、多くの学生たちが学食や購買部に列を作った。

 食農学類3年の広瀬辰馬さん(21)は、原発事故の風評被害の払拭(ふっしょく)のために戦っている福島県で農業を学びたいと埼玉県から進学した。コロナ禍で飲食店のバイトはクビになり、別の飲食店でバイトを始めたが、客足は鈍く、バイトの回数は減っている。「バイトが減って経済的に苦しいと訴える友達もいる。学生への経済対策も考えてほしい」と求めた。

 約450席が並ぶ学食で学生は間隔をあけ、同じ向きで座って、黙々と食べていた。自分が学生だった10年前、学食は大勢で集まり、会話する楽しい場だった。1人で食べる姿を見られたくないからトイレで食事をとる「便所飯」という言葉も生まれた。しかし、今は「多人数(3人以上)の飲食は一切しない」と呼びかけられ、学生たちは「黙食」をしている。

 経済経営学類1年の千葉善さん(19)は「最初は違和感だったけど、今では慣れた」と話す。「想像していた友達とワイワイ盛り上がりながら過ごす生活が戻るように政治家にはコロナ対策を進めてほしい」と訴えた。

 午後1時、行政政策学類の岸見太一准教授(34、政治学)のゼミを訪れた。この日は「それでも選挙に行く理由」と題した本を読み、各国の選挙制度や民主主義について議論した。

 3年生のゼミ生7人のうち、「選挙に行く」のは2人。大竹航さん(20)は「夫婦別姓や男女の賃金格差に興味がある。政策を訴えている政党に投票したいから」と理由を話した。

 一方、行かない理由は、5人中4人が住民票が実家にあるためと答えた。男子学生(21)は「不在者投票の仕組みも複雑で分かりにくい。スマホで投票ができるなど、簡単にしてくれたら若者も投票に行くのでは」と提案した。「選挙に行かないことは悪いことではないと思う」と持論を述べたのは荒井虎太朗さん(21)だ。「不満があれば投票に行くし、なければ行かない。行かない人は不満がないのでは」と話した。ゼミ後、岸見准教授は「政治学を学んでいる学生でも選挙に行かないって言うんですね」と苦笑した。

 午後5時ごろ、文化系サークル棟の近くで、行政政策学類2年の菅原朋哉さん(20)が10月末の大学祭に向けた準備をしていた。菅原さんは「大学祭があるので投票には行かない。政治について何も知らない自分が投票しても何も決められないから」と言った。政治家の言葉は難しくて、よく分からないと感じる。「もっと政治家個人のパーソナリティーを話してくれたら、若者も政治に興味を持つのではないか」と話した。

 4年前の衆院選で、福島県内の10代と20代の投票率は39・26%、32・43%と、全体(56・69%)と比べ、大きく下回る。ただ、大学を巡り、コロナ禍を通して政治と生活が密接だと感じている学生が多く、「投票に行かない」と話した学生も、必死に自分の言葉で話してくれた。その姿勢を行動で示す第一歩が選挙だと感じた。(滝口信之)

朝日新聞 2021年10月29日 10時30分
https://www.asahi.com/articles/ASPBX6QPKPBWUGTB006.html