在留資格変わっても「借金の足かせ」で身動き取れず…外国人労働者の転職なお困難 8日から受け入れ再開

 政府は8日、新型コロナの入国制限を緩和し、外国人労働者の受け入れも再開した。経済界の要望を踏まえた人手不足解消への対応だ。ただ外国人労働者は、劣悪な職場にいても容易に転職できない問題は未解決のまま。政府は2年半前に「特定技能」という在留資格を新設し外国人労働者の転職を認めたが、悪質な企業や仲介業者から課される借金にも縛られ、身動きが取れない状況が続いている。(山田晃史)
◆「奴隷的」に働くしかない
 「受け入れは再開されたが、外国人は転職できず、『奴隷的』に働くしかないのが現実だ」。外国人労働者を支援するNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」の鳥井一平代表理事は語る。
 日本の外国人労働者は昨年10月末現在で172万人で、この10年で2・7倍に増えた。「日本で学んだ職業の技術を母国に持ち帰る」ことが名目の「技能実習生」と留学生が4割超を占め、建設業や飲食業などで低賃金の労働を担う。
 技能実習生は転職の自由がないなど、職場が劣悪でも逃げ場がないことが社会問題化。政府は2019年4月、彼らが在留資格を特定技能に変えれば、転職できるようにした。

【特定技能とは】就労目的の在留資格。農業や介護など14業種で外国人労働者を受け入れ、同じ業種内での転職を認める。特定技能で働くには原則、日本語と技能の試験に合格する必要があるが、3年程度の技能実習を終えれば、農業や建設など同じ職種での資格変更が認められる。特定技能の外国人は今年6月現在で2万9144人。このうち技能実習や留学から資格を変えた人が8割を占める。

 だが実習生も留学生も、日本の受け入れ企業などに、手数料や学費など100万〜150万円の借金を背負わされ、来日する実態は変わっていない。働き始めた後も相場より高い家賃を課されることもある。立場が弱く転職を言い出しにくい上、「引き抜き自粛」を申し合わせる業界もあり、転職は困難だ。

◆「会社に借金を返さないといけなくて」
 「社長に嫌われて帰国させられたくないし、会社に借金を返さないといけなくて働き続けるしかなかった」。首都圏の介護会社で働く東南アジア出身の20代の男性も転職を考えたが、身動きが取れなかった。
 母国で面接を受けて採用され、当初は留学生の在留資格でアルバイト。後に特定技能に資格を変えた。その後も日本語学校の学費など会社から借りた計180万円は給料から毎月天引きされ、会社側が負担する約束だった来日前の教育費など計数10万円も引かれた。「給料は安いのに、借金を増やそうとする」。会社への不信感が募った。

 移住連によると、コロナ禍で困窮した外国人を対象に政府が資格変更を促した。その結果、特定技能に資格を変えても転職できない例や多額の借金をめぐる相談が相次いだ。低賃金やパワハラを我慢している人が多い現状も浮き彫りになったという。
◆ハローワークのような公的窓口が必要
 移住連の鳥井氏は「特定技能でも日本で働ける期間は実質5年に限られ、その間に借金を返さねばならない。会社を変える余裕はない」と指摘する。政府は高額な借金を課すなど、悪質な業者を排除する覚書を各国政府と随時結んでいるが、まだ効果は見えない。
 外国人労働者の問題に長年取り組み、7月に米国務省から人身売買と闘う「ヒーロー」の称号を受けた指宿昭一弁護士は「制度で転職を認めても借金をなくさなければ問題は解決しない。2国間でハローワークのような公的窓口をつくるなど、受け入れ制度の抜本的見直しが必要だ」と話す。

東京新聞 2021年11月9日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/141634