コロナ禍でのインターネット通販の利用増に伴い、宅配配達員として働く人が急増中だ。大半は通販や運送会社の社員ではなく、会社と委託契約を結ぶ個人事業主(フリーランス)。ウーバーイーツなど料理の配達に加え、アマゾンなど宅配全般に「雇用によらない働き方」が拡大。最低報酬の設定や、失業手当がない働く人を守る安全網の構築が「待ったなし」となっている。

◆身に覚えのないミス指摘され
 「『契約終了のメール』で目の前が真っ暗になった」。通販最大手アマゾンジャパンの配達員だった東京都内の30代男性が振り返る。
 男性は昨年5月から同社が運営する「アマゾンフレックス」の仕組みの下で働いた。登録すると、スマートフォンに配送日時や場所が表示され「早い者勝ち」で仕事が獲得できる。働く時間は自由だが、人工知能(AI)で業務を管理され、配達ミスが重なれば契約は解除される。昨年10月のメールには「『荷物が届いていない』と複数回苦情があった」と記されていた。
 本紙の取材にアマゾンの担当者は「重大違反が繰り返された場合に限り、不適格と判断することがある。パートナー(ドライバー)は異議を唱えられる」と説明。男性は指摘されたミスには身に覚えがなく、その都度メールで反論してきた。契約解除の通告にも抗議しようとしたが、アマゾンの社員と直接話す窓口はなかったという。
◆大半は個人事業主、立場弱く
 それでも男性は契約解除を受け入れざるを得なかった。個人事業主だったためだ。労働法は社員の安易な解雇を禁じるが、個人事業主は対象外。団体交渉も難しい。
 ネット通販や運送会社は社会保険料の負担などを避けるため、個人事業主の配達員と契約する形を増やしている。国土交通省によると、2016年3月に15万4000だった軽貨物運送業者は20年に17万6000に増加。国交省は「大半が個人事業主」とみている。
 「最低賃金もない個人事業主の厳しさが身に染みた」。50代のタクシー運転手はコロナ禍で月収が12万円に減少したため、都内のバイク便会社と契約し配達を始めた。会社は「月40万円稼げる」と言ったが、実際は数万円だった。
 人材紹介会社ランサーズの推計では、個人事業主(兼業含む)は今年10月現在で1570万人で昨年から約500万人増加。労働力人口の2割を占める。政府が19日に閣議決定した経済対策でも具体的な安全網対策はなく、労働問題に詳しい川上資人よしひと弁護士は「雇用労働者と実体は同じ形で働くフリーランスも多い。保護策を急ぐべきだ」と話す。(池尾伸一)
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東京新聞 2021年11月22日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/144055