バスの運転手が、痴漢の容疑者の現行犯逮捕に貢献した。ひとごとを装いバスを降りた男を運転席から降りて追いかけた。愛知県警守山署は1日、感謝状を贈った。

 古賀さんは11月19日午後4時すぎ、ゆとりーとライン(大曽根―高蔵寺)を運転していた。夕闇が迫り、車内は席に座れない客が出始める混雑具合。名古屋市守山区内のあるバス停に到着したときだった。

 「さわられました」。前方の出口から降りる際、女性(18)が古賀さんに話しかけてきた。事情を聴いている途中、1人の男が女性の背後をすり抜けるように降りていった。

 「あいつです」と女性が男を指さした。古賀さんは「事実を確認しなければ」とバスを降りた。痴漢被害は事実だと思った。話すうち、女性がだんだんと泣き出したからだ。

 男は素知らぬふりで歩いていく。バス停の数メートル先で、古賀さんは男に立ちふさがった。「お客さまから接触されたと申告があった」「ちょっと当たっただけだ」。押し問答だったが、パトロール中の守山署員が通りかかり、その場を引き継いだ。

 守山署は、この会社員の男(65)=守山区=を強制わいせつ容疑で現行犯逮捕した。容疑はバスで隣の席に座っていた女性の体を触ったというもの。逮捕時に男は「女性の反応が見たかった」と容疑を認めていたという。

 古賀さんは運転手になって4年目。痴漢被害の申告を受けたのは初めてだった。女性は最後までおびえた様子だったという。「痴漢は本当に許せない行為。被害に遭った方は気の毒だ。地域住民のため、これからも安心して利用できるバスにしたい」

 杉浦巌署長は「地域や企業の方の協力あってこそ、警察の仕事が成り立つ。今回の出来事で、古賀さんが強い責任感で職務に就いていることが分かりました」と話す。

 代替バスが出たため、バスの運行に大きな乱れは生じなかったという。(山崎輝史)

朝日新聞 2021/12/1 18:17
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