大阪市北区の雑居ビルに入るクリニックで男女25人が死亡した放火殺人事件で、谷本盛雄容疑者(61)がガソリンを入れたとみられる紙袋のうち一つを、非常扉に向けて投げつける姿が防犯カメラに映っていたことが、大阪府警への取材で明らかになった。非常扉を外側から粘着テープで塞ぐような細工も事件前に見つかっていた。府警は、患者らが逃げられないようにする狙いだったとみている。
 一方、クリニック内からは新たに刃物が見つかった。焼け跡からはガソリンの成分が検出された。
 防犯カメラ映像によると、谷本容疑者は両手にガソリンが入ったとみられる二つの紙袋を持って来院。一つを傾け、床に液体が漏れ出した。谷本容疑者がポケットから出したライターで液体に火を付けると、炎が上がった。その後、もう一つの紙袋を持ち上げ、非常扉の方向に投げつけた。来院してから数分間の出来事だった。

 院内に残された細工も明らかになった。壁に埋め込むように設置された消火栓の扉について、周囲の隙間(すきま)に補修材のようなものが塗られ、開かなくするような細工の形跡が見つかった。非常扉も外側からテープで目張りされていた。目張りは事件直前の17日朝、医院スタッフが見つけてはがしており、事件当時はなかったという。
 捜査関係者によると、谷本容疑者は事件直前の約1カ月間、所有する大阪市西淀川区の民家に滞在していたとみられる。この民家からは「消火栓を塗る」「隙間をどうするか」と書かれた手書きのメモが見つかっている。クリニックの状況とメモ内容が符合することから、府警は谷本容疑者が事前に工作していた疑いが強いとみて詳しい経緯を調べている。

 また、心肺停止の状態で搬送された被害者26人は診察室などがあるクリニックの奥に全員が倒れていた。受付側と診察スペースの間にある扉は閉じられており、谷本容疑者だけが受付に近い場所で倒れていたという。
 火災は17日午前10時20分ごろ、雑居ビル4階の「西梅田こころとからだのクリニック」で発生。谷本容疑者は重度の一酸化炭素中毒などで意識不明となっている。

毎日新聞 2021/12/22 19:39(最終更新 12/22 21:18)
https://mainichi.jp/articles/20211222/k00/00m/040/301000c