「政府が布製マスクを全国民に配布するとしたことで、その後、マスクの製造、流通が回復し、
今ではマスクの不足に対する心配は完全に払しょくされるなど、初期の目的は達成されました」
(中略)
21日の会見で、希望者に配布したのち、ついに年度内に在庫を廃棄することを岸田首相は明言。
だが、“恩人”安倍元首相をおもんばかってか、冒頭のようにアベノマスク配布の意義を強調することも忘れなかった。
(中略)
■アベノマスク配布前にマスク輸入量は回復

いまも安倍氏の支持者らが根強く信じている“神話”が、「アベノマスクの配布によって市場のマスク不足が解消し、価格も下がった」というものだ。
廃棄表明のニュースを受けて、こんなツイートが。

《アベノマスクは、コロナ禍でマスクが不足して、マスクの買い占めなどで価格が高騰しているときに
無料でアベノマスクを配布することでマスクの価格破壊を起こして、マスク市場を安定化させたという意味で、抜群の成果があったと思います》

《世の中の人ってアベノマスクの有り難さを理解出来てないの?!
あのおかげで不織布マスクの価格が元に戻って市場に戻ってきて、アルコール等の消毒薬も高騰を免れたんだよ。 大正解の政策を、なぜ感謝しないの?》

だが、政府統計を見ると、アベノマスクによって、マスクの供給量と価格が正常化したという主張には疑問符がつく。

もともと、日本で流通するマスクのおよそ77%は輸入品だった(2019年度、一般社団法人日本衛生材料工業連合会ホームページより)
昨年春に国内でマスク不足になったのは、新型コロナウイルスの世界的流行のために、世界中でマスク需要が高まった結果、マスクの輸入量が激減したことにある。

不織布マスクは、世界共通のHSコード(輸出入統計品目番号)で「6307.90 029」に分類される。
財務省貿易統計によると、コロナ前の2019年の総輸入量は12万7300トンで、中国産はおよそ85パーセント(10万8724トン)を占めていた。
だが、2020年2月には中国からの輸入量が激減し、全体の輸入量も前年比56%にまで落ち込んだ。
しかし、3月には90%まで回復し、4月からは前年を大きく上回っている。

【2020年上半期の不織布マスク(HSコード6307.90 029)輸入量の推移】

1月 1万5157トン(2019年同月比116%)
2月 4732トン(同56%)
3月 8697トン(同90%)
4月 2万5877トン(同257%)
5月 3万154トン(同309%)
6月 1万4064トン(同172%)

一般家庭へのアベノマスクの配布が行われたのは2020年5月から6月にかけて。
4月の段階で、すでに十分な輸入量は確保できるようになっていた。
その背景には、中国のマスク生産量が急増したことや、中国で一時規制されていた医療物資の輸出が解禁されたこともあるとみられる。

さらに、アイリスオーヤマやシャープなど、さまざまな会社が国産マスクの生産に着手。6月の輸入量は5月と比べて半減していることから、
日本国内で不織布マスクが供給過多となっている可能性もうかがえる。実際に過去のツイートを見てみると……。

《マスクが普通に、スーパーに売ってました。。。値段も298円、マスク不足の時代は終わりですかね?》(2020年5月7日)
《地元のピカソ(ドンキの小型店)でも不織布マスク売ってた もうアベノマスク配る理由ないよな…》(2020年5月8日)

この時点で、さらなる調達と配布を止めておけば、費用を大幅に削減できたはずだった。

■安倍元首相自らも唱えていた“アベノマスク神話”

そもそも、テレビで安倍元首相とその秘書官がつけているのを見るくらいで、市中でつけている人をほとんど見ることはなかったアベノマスク。
“誰も使っていないマスク”によって、流通が回復したというのはにわかに信じがたいし、
こうした主張を裏付ける統計が示されることもない。じつはこの“アベノマスク神話”は安倍元首相自らも唱えていた。

「マスク市場にたいしても、それなりのインパクトがあったのは事実でございまして、業者のなかにおいてはですね、
ある種の値崩れを起こす効果にはなっているということを評価する人もいる」(2020年4月28日の衆院予算委員会、安倍首相答弁)

500億円超の税金を使って強行されたアベノマスク政策。
岸田首相には根拠不明の“神話”をそのまま繰り返すのではなく、“神話”の真実性を検証したうえで、責任の所在を明らかにしてほしい。
https://news.yahoo.co.jp/articles/15a4b4325c18472124b251243dbe5189d58f09de?page=1