独立行政法人「国立病院機構」が九州ブロックで発注する医薬品入札を巡る談合疑惑で、公正取引委員会の立ち入り検査を受けた九州の卸会社の男性社員が「談合は常態化しており、自分も少なくとも25年関与した」と、西日本新聞「あなたの特命取材班」に証言した。入社して最初に談合の仕方を指導され、国公立病院では民間より高値取引が続いてきたという。男性の通報を受けた公取委は独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで同社を含む6社を調査。全容解明を進めているとみられる。

 男性は1980年代後半に入社し、営業として25年以上、九州の約20の病院を担当した。「最初の指導は談合の仕方だった。一生忘れない。長年にわたり、ほとんどの病院で談合があった」と話した。

 男性によると、談合調整の舞台となっていたのは、業界各社の本社や出先の責任者レベルがメンバーとなった「実務委員会」「流通委員会」という名称の連絡会。電話で価格を調整するケースもあったという。

 2003年、公取委が東北地方で立件した際は、捜査が及ぶのを恐れた社の上層部から証拠隠滅を指示された、とも打ち明けた。

 国立病院機構は翌04年、病院ごとだった入札を、ブロック単位で行い単価を抑える方法に見直した。ところが、男性の会社は営業担当に病院ごとの販売シェアを報告させ、それを基に談合の慣行は続いたという。

 嫌気がさした男性は13年、上司に担当病院での談合中止を提案。上司が実務委員会で他社と協議したが「ここだけクリーンにはできないとの結論だった」と拒まれた、と振り返る。

 男性は実態を明確にするため、独自にデータを集計。卸から国立病院機構と独立行政法人「地域医療機能推進機構」(JCHO)傘下の病院には、民間より医薬品が明らかに高く販売されていた。19年度までの5年間をみると、薬価からの割引率が民間病院が17%前後なのに対し、独法は11%前後。約600品目に及ぶ医薬品について個別に調べても、独法の単価はほかの病院より高かったという。

 国立病院機構は現在、九州で系列31病院を抱え、年間約200億円の医薬品を入札で発注。独法は購入量が多く、男性は「民間より安くならないとおかしい」と話す。男性は16年以降、これらのデータを公取委に3度にわたり提供した。

 JCHOの事件では19年に公取委の調査を受け、卸3社が独禁法違反で有罪判決を受けている。

 社内で談合中止を訴えた男性は17年に営業から外され、倉庫管理業務に回っている。「業界は全国レベルでうみを出し切って、今度こそ生まれ変わらないといけない」と話している。

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 男性が勤める会社は昨年11月、公取委の検査を受けた事実を認め「全面的に協力する」とのコメントを発表。本紙が同12月に改めて取材したところ「コメント以外の内容は答えられない」と回答した。

製薬会社と医療機関の「板挟み」

 医薬品取引を巡っては、過去にも談合が立件された。背景には、販売価格を下げたくない製薬会社と、安く仕入れたい医療機関の間で卸会社が“板挟み”となる構造が浮かび上がる。

 患者側が払う薬価は国が決め、流通取引上の上限となっている。病院は薬価差益を狙い、できる限り安く仕入れようとする。製薬会社は実勢価格の低下により薬価も下がることを恐れ、病院に高く買ってもらいたい。その間にいる卸会社の利幅が薄くなる構図だ。

 外国の医薬品流通に詳しい中京大の中村努准教授(経済地理学)は「欧米では卸会社は薬の価格交渉への関与が少なく、日本の制度は特殊だ」と指摘する。

 なぜ、国公立病院で談合事案が集中するのか。

 独禁法を巡る問題に詳しい井本吉俊弁護士(東京)は「民間病院からは価格を相当絞られる。一方で国立病院機構などは卸会社の間で確実に利益を分け合えるとして、かもになってきたのでは」と推測する。

 業界では、卸会社の赤字取引を製薬会社が追加の報奨金などで補う商慣行もある。厚生労働省はそうした流通形態を見直すように促すガイドラインを2018年に示している。

 中村准教授は「不透明な流通は20年ほど前から指摘されていた。国は談合の背景として認識しながら、業界の自助努力に任せてきたのではないか。価格交渉への監視を強める必要がある」と改善を求めている。

(水山真人、竹中謙輔)

 医薬品卸の談合事件 (略)

西日本新聞 2022/1/1 6:00 (2022/1/1 16:40 更新)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/855734/