3年にわたり、葛藤しながら取材を続けてきたが、刑が確定し、もともと小島が希望していた刑務所に入ってからが「実際一番大変だった」という。

「もともと彼は精神不安定はあるんですけど、刑務所の中で暴れたり、ハンストなどをやったりする。自傷行為みたいなものなんですけど、わざと違反行為をして、それで懲罰を受けることを求めているわけです。保護室に入れられて医療刑務所に行って、いままた刑務所に戻っているわけですが、そういうことを繰り返す中でどんどん精神状態が悪化していっています。

手紙の内容も、まだ拘置所で判決が出る前とか、出た後とかは、一応読める内容なんですけど、刑務所に入ってからは、もうなんの話をしているのかわからないという支離滅裂な手紙が来るようになったし、あと一時期、実際の家族とほぼ縁を切れたようなときは、精神的ケアを求められるようになったりもしました。毎週ポストカードを送ってくれとかそういう感じのことを言われたりします。

小島を取材したあと、部屋に観葉植物がすごい増えたんです。そこに自分の本心が現れているというか、癒しを求めてこんなことになったというか」

取材の疲労の癒しを観葉植物に求め、部屋が緑だらけになったとインベ氏のもとには、いまも彼からの手紙が届くという。本書からは、小島は「家族に優しくされない」から「刑務所に家族になってもらおう」と行動を起こしたように思えた。そして、受刑者になったのちも、たびたび問題行動を起こし、刑務所から「構われる」ことに喜びを感じているように見えた。

「実母よりも養子縁組した母方の祖母に愛情を求めているし、最近では実父の愛情も求めていて、家族に振り向いて欲しいというのは、いまもすごく感じるんですけど、彼は結局諦めて、刑務所にそれを求めたんですよね。そして事件を起こした。

自分は死ぬぞ、と言っても、実際の家族はそれを止めない。刑務所だと受刑者を死なせたら問題になるので死なせないようにする。だからいくら自傷行為をしても生かされるわけですよ。食事を拒否しても鼻からチューブを入れて流動食で無理矢理生存させるわけですね。それが彼のいう親子関係であり、生存できる場所としての家庭がそこにあるっていうんです。だからすごい無機質な愛情なんですけど、それを求めてるんですよね」
https://news.yahoo.co.jp/articles/4e158851abe398860228de591efb0772ba0ea39d

――本書では小島が無期懲役囚人として刑務所に入ったあともハンガーストライキを起こす、汚物を体に塗りたくるなど、自傷行為を繰り返している姿も描かれています。果たして小島は望みを果たせたのでしょうか。

刑務所に入ってからも小島と何度か手紙のやりとりをしています。その文面からは家族を求めている、家族に振り向いてほしいという思いを感じました。

一方で小島は家族にかまってもらう、相手をしてもらうことを諦めている。

もっと言えば、人を諦めているような語り方をする。そして「刑務所に家庭を求めている」「刑務所は家庭の代償行為だ」というわけです。

自ら死に向かったとしても刑務所であれば生かされます。そこで初めて自らに生存権があることを証明できる。暴れて刑務官をよんだり、錯乱して保護室に入れられる。こういった刑務所内での試し行為こそが小島の目的なのではないかと私は思いました。

小島は刑務官が仕事だからしょうがなく、彼の生存権を守っていることを理解しています。それでもかまわない、というのが彼の理屈なのです。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/90012?page=5