現代ビジネス2022.02.16
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92504

■世界の目は現在、ロシアとウクライナに注がれている。
10万人規模のロシア軍が、昨年11月からウクライナの東部国境付近にとどまっている。ウクライナの北の隣国ベラルーシでは現在、ロシア軍とベラルーシ軍の合同軍事演習が行われている。南を見ると、黒海にロシア艦隊が展開している。ロシア軍は、ウクライナを北南東、三方から包囲し、侵攻の準備が完了しつつあるように見える。

プーチンの要求は、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証」だ。米国もNATOも、「この要求を受け入れることはできない」とロシア側に回答した。しかし、その後も侵攻回避のための交渉が続けられている。

そんな中、ロシアでは、将校をまとめる団体、「全ロシア将校協会」が「プーチン辞任」を求める公開書簡を発表したーー。

■大軍を展開するプーチンの動機
まず、なぜロシアは、大軍をウクライナ国境付近に展開しているのか、その経緯を簡単におさらいしておこう。

1990年、ソ連は東西ドイツの統一を容認したが、その際一つ条件を出した。それは、ドイツより東に「反ソ連(反ロシア)軍事同盟」NATOを拡大しないことだ。

米国は、不拡大を約束した。しかし、ソ連崩壊後、米国は約束を破り、東欧諸国だけでなく、かつてソ連の一部だったバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)をもNATOに加盟させた。ソ連崩壊時16ヵ国だったNATOは、現在では30ヵ国にまで増えている。

そしてさらに、米国は、ロシアの隣国で旧ソ連国ウクライナやジョージアをNATOに加えようとしている。

プーチンは、米国がロシアとの約束を破り、NATOの東方拡大を続けていることに憤っているのだ。

ウクライナの西を見渡すと、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアと、NATO加盟国がずらりと並ぶ。

ウクライナはロシアとNATO勢力の間にあり、プーチンは「最後の緩衝国家」とみている。それでプーチンは、ウクライナのNATO加盟を何としても阻止しよう決意している。

だが、この問題は、東欧三ヵ国(ポーランド、チェコ、ハンガリー)がNATOに加盟した1999年からずっと続いている問題だ。それなのになぜプーチンは昨年11月になって突然、ウクライナとの国境に大軍を集結させたのか? 
真相は、プーチンと側近以外誰にもわからない。しかし筆者は、「米中覇権戦争が激化していることと関係がある」とみている。

■どういうことか? 
米中の覇権戦争は、2018年10月のペンス演説から始まった。それがバイデンの時代になっても終わることはなく、さらにエスカレートしている。

戦略的な米国は、敵の数を減らそうとする。たとえば、米国は第2次世界大戦中、ナチスドイツを倒すために、宿敵ソ連と組んだ。大戦が終わると、今度はソ連を打倒するために、かつての敵ドイツ(西ドイツ)、日本と組んだ。

プーチンは、「米国は、中国とロシア、二大国を同時に敵に回したくないはずだ。今ならウクライナ問題で妥協を引き出せる」と読んだのだろう。

そこで彼は、大軍を集結させることで、米国とNATOを脅した。

「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証をしろ!  さもなくば……」と。

ちなみに、プーチンは、「ウクライナに侵攻する」とは明言していない。だが、国境に大軍を送ることで、「拒否すればウクライナに侵攻する」ことを理解させたのだ。

■ロシア将校の反逆
さて、日本ではまったく報道されていないが、ロシアで1月31日、驚愕の出来事が起こった。「全ロシア将校協会」のHPに「ウクライナ侵攻をやめること」と「プーチン辞任」を要求する「公開書簡」が掲載されたのだ。

原文は、以下のページから見ることができる。

Обращение Общероссийского офицерского собрания к президенту и гражданам Российской Федерации

この公開書簡は、レオニド・イヴァショフ退役上級大将が書いたものだが、彼は、「個人的見解ではなく、全ロシア将校協会の総意だ」としている。

ちなみにイヴァショフ氏は、もともとかなり保守的で、これまでプーチン政権を支持してきた。国営のテレビ番組にもしばしば登場し、著名で影響力のある人物だ。

■問題の書簡には、何が書かれているのか? 
イヴァショフは、プーチンが強調している「外からの脅威」を否定しない。しかし、それは、ロシアの生存を脅かすほどではないとしている。
(以下リンク先で)