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シナリオその5 「プーチン氏失脚」
では、ウラジーミル・プーチン氏本人はどうなのだろう。侵攻を開始したとき、プーチン氏は「我々はあらゆる結果に備えている」と宣言した。
自分自身の失脚という展開にも備えているのだろうか? まったく考えられないことに思えるかもしれない。しかし、世界はここ数日で変わったし、そういう展開を考える人も増えている。英キングス・コレッジ・ロンドンの名誉教授(戦争研究)、サー・ローレンス・フリードマンはこう書いた。「キーウで政権交代が起きる可能性と同じくらい、モスクワで政権が変わる可能性も出てきた」。

フリードマン教授はなぜ、こう言うのだろう。たとえばこうだ。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人ものロシア兵が死ぬ。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失う。市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれない。大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧する。しかし、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになる。欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示する。流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚する。この展開もまた、現時点ではあり得ないことに思えるかもしれない。しかし、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性ゼロの話ではないかもしれない。

結論
以上のシナリオはそれぞれ、独立したものではない。それぞれのシナリオの一部が組み合わさり、別の結末に至るかもしれない。しかし、今のこの紛争が今後どういう展開になるとしても、世界はすでに変わった。かつて当たり前だった状態には戻らない。ロシアと諸外国との関係は、以前とは違うものになる。安全保障に対する欧州の態度は一変する。そして、国際規範に立脚する自由主義の国際秩序は、そもそも何のためにその秩序が存在するのか、再発見したばかりかもしれない。