佐渡島の金銀山が「世界文化遺産」に推薦されたニュースに地元民は沸いたことだろう。そんな慶事の直後の発表だけに間が悪かった。

 佐渡島と新潟市などを往復する「佐渡汽船」が大規模増資を発表したのは2月7日。この日、「みちのりホールディングス」が経営難の佐渡汽船に15億円を出資し、再建を担うことになったのだ。これに伴って5月6日に同社は東証ジャスダックの上場を廃止。200円前後で取引されている株は売買できなくなり1株あたり30円が一般株主に支払われる。

「ついに行き詰まったということです」

 そう説明するのは証券会社の幹部だ。

「今回の再建策は新スポンサーが株式の3分の2以上を握り、少数株主に株を手放してもらうことが条件でした。スクイーズアウトといって、一般的には株価よりも高い金額を払うのですが、佐渡汽船は23億円近い債務超過企業で企業価値はゼロ円以下。しかし、事業の公共性が高くて倒産させるわけにもいかず、一般株主にはわずかな現金で涙を呑んでもらうことになったわけです」

補助金も焼け石に水
 佐渡汽船は優待銘柄として知られ、株主に乗船券が配布されることから“佐渡好き”の投資家も多かった。しかし、ここ10年ほどは赤字と黒字を行ったり来たり。公共交通機関ということもあって、大株主の新潟県(32%)と佐渡市(10.52%)などが補助金を出してきたが、それも焼け石に水だった。

 新潟県の担当者によると、

「今回の上場廃止は、みちのりホールディングスさんらと話し合って決めました。佐渡汽船は島民生活に欠かせない会社なので、就航率が高くなくてはいけない。しかし、その一方で乗船率は5割前後。2015年には60億円かけて建造した高速カーフェリー『あかね』(直江津―小木)が就航しましたが、乗船率1割という惨状で、結局船を売却せざるを得なかった。そこにコロナが襲ったわけです」

 代わって再生を担うことになった「みちのりホールディングス」は、産業再生機構の元専務・冨山和彦氏が率いる「経営共創基盤」のグループ会社。過疎地のバス会社などの経営を引き受けてきたが、船会社は初めてだ。とまれ「世界遺産」登録の成否が再建のカギになりそうである。

「週刊新潮」2022年3月3日号 掲載

新潮社

デイリー新潮2022年03月08日
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/03080556/