プーチン大統領による核恫喝言動に怯えた日本で、安倍晋三元首相をはじめとするいわゆるタカ派の人々から「アメリカとの核シェアリングをタブー視せずに(実現に向けての)議論をすべきである」といった主張が湧き上がった。アメリカで特にこの状況を歓迎しているのが、軍関係の対中強硬派の人々である。

 しかし、安倍氏の発言に対して、岸田首相や岸防衛大臣は「非核三原則を遵守するという日本政府の立場からは、核シェアリングは認めることはできない」と直ちに火消しに回った。核シェアリングの議論を封じるそうした日本国内の動きに対して、アメリカの上記の人々からは「日本防衛当局はこの機会を潰してしまうのか」と不満の声も上がっている。中でも、岸田首相が広島選出であり岸防衛相が親台湾派かつ安倍首相の実弟であることを知っている人々からの不満が強い。

アメリカにとっては「一石二鳥」
 アメリカ軍やシンクタンクなどの対中強硬派が日米核シェアリングの実現を期待しているのは、東アジア海域(東シナ海・台湾・南シナ海)での通常戦力においてアメリカ軍が中国軍に対して劣勢になりつつある現在、ごく当然な態度と言えよう。

 アメリカ海軍空母艦隊は日本海軍を全滅させて以来、これまで世界を睥睨(へいげい)してきた。しかし、もし今後数年間のうちに米中軍事衝突が勃発した場合、中国軍の強力な接近阻止戦力(対艦弾道ミサイルや極超音速対艦飛翔体をはじめとする各種対艦ミサイルを主たる戦力としている)によって第一列島線(九州から南西諸島を経て台湾に至りフィリピン諸島を経てボルネオ島に至る島嶼線)に接近することが極めて危険な状況に陥ってしまった。

 さらに、その空母艦隊(現在米海軍では空母打撃群と称している)から発進する艦載機も、とても東シナ海や南シナ海の中国沿海域上空に接近するだけの投射能力を備えていない。米軍は強力な空中給油能力を備えているが、中国海軍航空隊や中国空軍、中国艦艇対空戦力が米軍航空戦力に悠長な空中給油などを許すほど現実は甘くない。

(略)

日本の属国度を飛躍的に高めることに
 上記のように、アメリカにとって日本との核シェアリングは、NATOの枠内において実施されている核シェアリング(ベルギー、ドイツ、オランダ、イタリア、トルコ)以上にアメリカ側にとってのメリットがある。

 おまけに、日本はNATO諸国に比べて政府も、防衛当局も、国民も御しやすいうえに、軍事リテラシーが低い。そのため「日米核シェアリング」と言っても日本に核兵器を配置し自衛隊に警備させるだけで、管理・作戦は完全にアメリカ側がコントロールすることになる。つまりアメリカにとっては願ってもない経費節減を伴った前進地上核戦力を手にすることができる、というわけだ。

 要するに、軍事的支配・従属関係という現状の日米同盟下において核シェアリングを実現すれば、日本のアメリカに対する属国度を飛躍的に高めることは必至である。

 もっとも、広島と長崎に対する無差別核攻撃によって数十万人の非戦闘員を虐殺したアメリカの核兵器を日本国内に配備して、その核兵器によって自らを守ってもらう、といった仕組みを日本自らが作り上げたならば、アメリカ側からますます馬鹿にされ、誇りなき国家として国際社会からも蔑まれることになるであろう。

 核シェアリングを含めて核武装に関する議論そのものをタブー視するのではなく議論を戦わせることは不可欠である。ただし、大量殺戮兵器であり、日本にとっては歴史的にも極めて特殊な兵器である核兵器に関する議論は「国家論」の分野の議論であることを忘れてはならない。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69187