東日本大震災からまもなく11年。シリーズでお伝えしています「つなぐ、つながる」プロジェクト、３回目のはアイヌの人たちが語り継いできた津波の「教訓」です。

　「悪い神が、大きな口を開けて、海水を一時（いっとき）に飲み込む。それを一気に吐き出すため、これが陸地を襲う津波になる」

　これは胆振の白老町で記録されたアイヌの人たちの伝承です。

　「白老には古くからアイヌ民族が生活していて…」

　今月５日、東日本大震災から11年になるのを前に、国立アイヌ民族博物館でイベントが開かれました。

　国立アイヌ民族博物館・シンウォンジ エデュケーター「昔の津波を調べる方法には古文書や地層がある。北海道の歴史記録は、18世紀以前のものは数少ないです」

　そこでカギとなるのが、アイヌの人たちが子孫に伝えてきた津波の話や儀式です。

　国立アイヌ民族博物館・八幡巴絵 学芸主査「津波はアイヌ語でオハコペッと言います。津波は海辺で生活するアイヌにとっては本当に恐れられていました。これを見たらすぐ浜に出て、古い道具を浜に並べて浪にさらわせて、津波の神へ与えたといいます」

　アイヌの人たちが恐れた津波。それが、あの日、実際にやってきました。

　白老町消防本部 消防課・木村公彦 主査「浴槽（の水）が溢れるように、あっという間に海面が上昇して波が押し寄せてきた」

　そのときの写真です。道路を走る車のすぐ後ろに津波が迫っています。白老町の津波の高さは2.2メートルだったとされています。まさにこの瞬間、この場所を通りかかった人がいました。

　吉田末治さん（75）「ここです（指さして）ここのところに流れてきた」

　当時、町内会長を務めていた吉田末治（よしだ・すえじ）さんです。

　吉田末治さん（75）「なんとか逃げることだけしか考えていなかった。すごいわ、ドーッと来るからね」

　吉田さんは海から１キロ弱離れた会館に逃げ、避難してきた住民の対応にあたりました。震災後も地域の防災に取り組み、津波の言い伝えについて勉強会を開き学んできました。

　吉田末治さん（75）「津波が来た時に逃げない、みんな。『（津波は）来ない』って簡単に言う。（津波は）来るんだから、逃げなきゃだめだと（地域の）皆さんに訴えていかなきゃいけない」

　白老のアイヌの人たちは、津波のときに「避難所」になる高台がどこかも、子どもや孫たちに伝えていました。

　記者レポート「白老町内にある塩釜（しおがま）神社です。今は162段続くの階段の上に、社がありますが、昔はアイヌの人たちが津波から逃げる場所になっていたということです」

　現在のハザードマップを見ても、この場所は浸水エリアから外れています。

　津波にまつわるアイヌの人たちの伝承は、道内各地に存在します。

　地層に残る津波の痕跡を研究している、新潟大学の高清水康博（たかしみず・やすひろ）准教授は、2005年に、津波にまつわるアイヌの人たちの伝承40編を調査。言い伝えがあった地域の海岸からの距離や標高を検証した結果、半数の20編が「実際の津波の被災体験に基づく可能性がある」と結論付けました。

　新潟大学・高清水康博准教授（地質学）「アイヌの人たちが生きていくうえで『これは伝えなければならないこと』ということが伝わっているのだろう」

　アイヌの人たちが先祖から受け継いできた津波の「教訓」。これを、将来にどうつなげるか。考えるのは私たちです。

3/11(金) 6:32配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/48d2558190c76cb4ef575eef8ba34f58cdfbde58
https://newsatcl-pctr.c.yimg.jp/r/iwiz-amd/20220311-00000002-hbcv-000-1-thumb.jpg