<ベトナム戦争以降、米軍で命を落とした将校は1人だけだが、ウクライナ侵攻以降のロシア軍では既に5人ないし6人にのぼる。いったい何が起きているのか>

ウクライナ侵攻から1カ月弱で、ロシア軍はすでに前線で戦う将官を少なくとも5人失ったと、西側当局者が3月21日に発表した。
通信障害と何十万人もの徴集兵を含むロシア軍の規律の欠如によって、前線に命令を伝えることが困難になっているためだ。

死亡したロシア軍将官は、そのほとんどが准将や少将など星1つあるいは2つの司令官で、少なくとも中将が1人含まれている。
ロシア軍将官の死傷率は第2次世界大戦以来最も高いとみられている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の最高顧問を務めるミハイロ・ポドリアクは3月20日、
ロシア軍将官6人が死亡したと述べ、侵略したロシア軍はウクライナでの戦いについて「完全に準備不足」だと主張した。

ロシア軍指揮官の死者数に関する欧米当局者の見積もりは、もう少し控えめだ。

西側情報機関の情報分析に詳しいあるヨーロッパの外交官は21日、フォーリン・ポリシー誌に、少なくとも5人のロシア軍将官が死亡していると語った。
その主な原因は、電子通信機器の故障で指揮官の居場所を特定され、攻撃の標的にされたこと、さらに約20万人という大部隊(その多くは若い徴集兵)を命令に従わせるために、
将校が前線に出向かざるをえなくなっていたことだという。

「彼らは最前線にいる部隊に命令を理解させるのに苦労している」と、この外交官は、最近の戦場での情報活動について、匿名を条件に語った。
「指揮官は命令を実行させるために現地に赴かざるをえないため、通常では考えられないほど大きな危険にさらされている」。

この外交官によると、ロシア軍将官の死者数は、ウクライナに展開する部隊の司令官の5分の1(西側情報当局の推定では20人)に上り、
軍の活動能力も低下しさらに行き詰っているという。「すべては軍の準備不足が原因だ」と外交官は言う。「何かをするために部隊に命じても、それが実現しない」

この戦争では、艦船同士の戦闘はほとんどないのに、海軍の上級将校が犠牲になっている。先日も、ロシア黒海艦隊のアンドレイ・パリー副司令官(少将昇進を控えていた)が、
ウクライナ東部の包囲された都市マリウポリ郊外でウクライナ軍に射殺された。

21日未明、政府寄りのタブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダは、ウクライナでの約1カ月の戦闘でロシア軍兵士9861人が死亡、1万6153人が負傷したと報じた。
ロシア国防省の公式統計のリークまたはハッキングによる数字と見られている。この記事は後に削除された。

ロシア国防省の公式発表では、開戦から1週間足らずの3月2日時点で、ウクライナにおけるロシア軍の死者は498人となっている。

だが関係者によると、ロシア軍の指揮官は戦術的なミスも犯している。3月上旬にウクライナのハリコフ市郊外でビタリー・ゲラシモフ少将が殺害された後、
ウクライナ情報当局は、ロシアの極秘情報専用通信機器の故障に不満を表す無線通信を傍受したことを発表した。ゲラシモフは、ロシア軍幹部ワレリー・ゲラシモフの甥とみられている。


暴れる徴集兵

米軍ではベトナム戦争以降、戦死した将校は一人だけだ。2014年、米陸軍のハロルド・グリーン少将がアフガニスタンの米軍基地を視察中、アフガニスタン兵の銃弾に倒れた。
あとは、2001年9月11日の米同時多発テロでハイジャックされた旅客機がペンタゴンに衝突したときにティモシー・モード中将が命を落とした例があるくらいだ。

前述したヨーロッパの外交官は、フォーリン・ポリシーの取材に対し、ロシアの徴集兵が食料を求め、店舗や民家で略奪行為を働いたときなど、
ロシアの将官が現場に出向いて規律を説かなければならない場面もたびたびあると述べている。

現役や過去の米政府高官たちは、ロシアは西側の軍隊とは異なり、下士官の規律を維持する専門組織がないため、
ソーシャルメディアをにぎわしているような戦争犯罪につながっていると述べている。

元海軍大将のフォゴは、「これは規律とプロ意識に欠ける軍隊の証拠で、統率力と訓練の不足を示している。
将官はそれを補うために前線に赴かざるをえない」と語る。「まったく無計画なやり方だ。ロシア軍は規律のない暴徒へと化している」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98360.php